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そこまで好きって思える人に出会えたのはすごいと思う。奇跡じゃないかな。
あたしはまだ出会えてないからさ。芳野さんも知ってる通り、そもそもそういう感情を相手に持つことが怖くなってるところあるし。だって、好きとか思っても気持ち悪いって言われたことしかないからそりゃ怖いよ。あー違う、あたしの話をしてもしょうがないんですよ。
あたし、芳野さんよりあの人と接した年数は長いでしょ。前の担当だから。あ、やだ、ヤキモチは妬かないでよ。男にそういう気持ち一切ないの知ってるでしょ。でね、あたしあの人と話してる時、いつもちょっと怖いなって思ってたんです。ここだけの話にしておいてね。うん、約束。……あの人って、優しいじゃないですか。基本的にいつもニコニコしてて穏やかで、指示も的確。だからちょっとでも不機嫌になると、よけいに怖い。必要以上に構えちゃうっていうか、あっごめんなさい! って咄嗟に思っちゃうんだよね。こっちが悪くなくてもだよ。よく考えなくてもおかしいよね、それって。
何て言うのかな。あの人と話してると、こっちの感情をコントロールされそうっていつも思ってた。
この笑顔を曇らせないようにしようって。当たり前だけど、あの人に気に入られたいからじゃないですよ。仕事の面ではあたしだって妥協しないから、負けるもんかとも思ってたけど、そことは違うの。もっと、感情的な部分の話。もしかしたら、あたしの育った環境に原因があるのかもしれないけど。あたしのお母さん、地雷がどこにあるかわかんない人だったから――あ、今もそうだけど、でも昔の方がひどかったんですよ。いつ怒りだすか、泣きわめきだすかわからない。だからいつもハラハラしてた子供時代を思い出したんです。そこが根本的な理由だったらあの人に罪はないですけどね。だから、一方的なあたしの印象。
何回か話してるけど、次に担当になる新人です、よろしくねって芳野さんを紹介された時、すぐわかったよ。芳野さんがあの人に惚れてるって。わかりやすい行動? あはは、してなかったって。あたしがそういうの察するの得意なだけ。一生懸命隠そうとしてるけど、ダダ漏れに見えたの。あたしにはね。でもあの人も気づいてたと思うよ。だって、あの人だもん。思うでしょ? あんなに頭が回る男が、自分を好いてくれてる女の子に気づかないわけがないですよ。
だから同時に、ちょっと心配になったの。芳野さんのこと。この人きっと、どんどん深みにハマりそうって。なんでだろうね。今思い出そうとしても具体的な理由はわかんないですけど。何かすごく印象的なことがあった気がする。何だっけ。待って、今……
おかしいな、あたし記憶力には自信あるんだけどな。まぁ思い出したら言うね。
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