触るとか触ってないとかの話じゃないですよ。だって私、まだ靴も脱いでなくて、電気も点けてなかったんですよ。点ける前に、ブウンって独特な音がして、画面が白く光りました。パニックですよね。何が起きたのかわからなくて、とにかく電気を点けなきゃ、部屋を明るくしなきゃって焦って、スイッチをバチバチ叩きました。

 でも点かないんです。全然。あの部屋に住んでそれなりに経ってたし、たまたまこのタイミングでダメになったのかもしれないとも今なら思えますけど、あの時はとにかくパニックでした。とにかく怖い、ここから出ようって思ったのに、今度は足が動かない。

 膝が笑うとかって日本語ありますよね? 本当にそんな感じで。ガクガク震えて力が入らないんです。足の裏がべったり床に張り付いたみたいに動けない。でも目だけはデスクトップの画面から離れてくれない。見なきゃいいのに、視線すら自分の意志で動けなくなりました。

 真っ白だった画面がすうっと消えたら、設定した覚えのない壁紙が現れたんです。私に届いてたダイレクトメールの差出人のアイコン。真っ黒なまんまるに、目玉がふたつ。最初は猫の目かと思ったけど、絶対違う。あれは人間の目です。イラストじゃない。本物の眼球に見えました。叫びだしそうになったのに声も出ない。喉の奥がカラカラにはりついてるんです。それで、怖くて怖くてどうしようもなくなった時に――



 ハァ。

 小さなため息が、私の耳に届いた。


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