第23話



私の問いかけにしばらく考えていたサンクだったが、やがて口を開いた。


「分かった。きちんと順序を守ろう。だが、エリーも悪いぞ。あんな可愛い顔をして」


なんとか貞操を守ることに成功して安心していれば、サンクにそんなことを言われる。

本当の所、私はプロポーズに憧れなんか抱いていないし逃げるための口実に過ぎなかったのだが、これはまた何かしらのいいわけでも探しておかないとまた大変なことになるかもしれない。


「もう、揶揄わないでちょうだい」

「別に揶揄っていない」

「戦争でアドレナリンが出ているのは分かるけれど、明日自分の今日の発言に後悔することになるわよ」


私の忠告に心当たりがないようで、首を傾げている。

まぁいいや、明日思いっきり後悔してもらおう。


「じゃあ私は自分の部屋に戻るわね」

「え、もう帰るのか!?」


ベッドから降りてドアの方に向かえば、サンクが焦ったように声を上げる。

でも馬車の中よりも冷静になっているのか、無理に腕を引いてくることはない。

普段は無理強いしてくるような性格ではないから、さっきのは本当に驚いた。


「だって、サンクだって疲れているでしょう?今日はゆっくり休んで」

「……手は出さないから、一緒に寝てほしい」


ん?


その発言に違和感を持ち、ベッドの方を振り返るとベッドの縁に腰かけてこちらを見つめる瞳とぶつかる。

何言っているんだ、と言おうかと思ったが、どこか寂しそうなその雰囲気に思わず口をつぐんでしまう。


「…やっぱり、いいや。変なこと言って悪かった」

「………いや、まぁ、いいけど」

「本当か!?」


途端に嬉々として手招きしてくるサンク。

私も押しに弱いな、と思いながらもベッドに引き返してその隣に入る。


「ふふっ、なんか懐かしいね」

「そうだな」


昔はお互いの国のでよくパーティーが開かれたものだ。

そのパーティーの夜はこうして一緒のベッドに入って眠っていた。


あの頃は本当に幸せだった。


「そういえば馬車に杖置きっぱなしじゃないかしら」


ここまでお姫様抱っこで連れてこられたから杖が馬車に置かれたままなことを思い出した。

サンクは今気づいたようで、ベッドから起き上がった。


「…取ってくる」

「うん、ありがとう」


サンクが扉から出ていくのを見て、小さく息をつく。


私たちは今まで今を生きるのに精一杯で、これからのことなんて考えたことがなかった。



この世界はチェスとは違う。



やり直しの効かない一度きりの世界で今日も私たちはクロンダルと共に生きていくのだ。


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