第2話 沈む世界
「え.....君大丈夫」
「あ.....たれ?」
「え?」
「あなた.....誰?」
遥か遠くから喋るようなとてもか細い声で少女は二有無に言う
水で濡れている上に寒い夜風は身に応えるだろう
その声は直線ではなく震えている
その人ならざる声に背筋が凍りつつも、二有無は意を決した
「お、僕の名前は三池 二有無。高校2年生です」
そのただならぬ存在感に二有無は敬語を使った
が、二有無の恐怖感は先ほどまでとは比べ物にならなかった
その少女はその声とは裏腹にとても可愛らしい見た目をしていた
髪が少し青味がかっていて、少し不気味な感じがする
だが、その長髪な髪は波に使っている割にはサラサラした雰囲気がある
その肌は白くまた弱々しくて
そして、そのゾクッと来るような美人さ
二有無は思わず彼女を守ってあげたくなった
それが畏怖の対象だとしても
二有無はその少女に差し出す
少女はそれに応え、その少年の手を取った
「私の名前は.....目白 藍火。私.....何でここに居たのか分かんないの。私.....どこで生まれたのか今まで何をしていたのか分かんない.....」
「あ.....記憶喪失?」
「そうみたい.....。自分が誰なのか分かんない」
「.....とりあえず俺の家に来る?」
そう二有無の口から出た
咄嗟に二有無は口元を抑える
振られたやけくそで二有無はそう言葉に出した
その言葉に藍火はこくりと頷く
冷えた潮風が二人の間を通り抜けた
その風に藍火は強く震える
「.....ああじゃあ家に行く.....か」
______________________________________
ガラッ
二有無は家の玄関を開けた
いつもと違うのは自分と年が同じ女子を連れている所だ
玄関を開ける一方、もう片方の手では女子の手を握っている
二有無は扉を開け、解放された場所に手を添えて言った
「ここが.....僕の家」
「.....」
そう真っ暗で何もない空間に向けて悲しげに二有無は言った
「誰もいないけど.....」
「まあ.....僕の両親死んでるからな。災害で死んでて、今は国からの補助金を貰えて何とか日々食いつないでる。まあ.....金はないけどゆっくりしていって」
「うん.....」
藍火はゆっくりと境界線を越え、靴を落とす
腰を下ろして靴を揃えた後、藍火は居間へと歩いていった
「.....何やってだろ僕」
一人残され、二有無はそうポツリと言った
二有無は今まで女性を家に上げたことが無かった
それが今日良く分からない形で破られる結果になるとは
人生は何が起こるか分からない
そう二有無は思った
夜風が骨身に染みる
このままここに留まっていてもしょうがないので二有無は家に入った
少女への恐怖が薄れ、先ほどまでよりも速足で居間へ駆けこむ
そして、中心の上に張り付けてある電灯の線を握った
「あ.....ごめん電気付けるよ」
そうして真っ暗な空間に色がともった
そこには乱雑した部屋の光景があった
家具が壊れた状態で散乱して足の踏み場もない
一歩踏み外せば、木の尖った部分に足を刺しそうでうかつに歩くことが出来ない
本はボロボロになった状態でそこら辺に転がっている
掃除をしていないのか、部屋中が埃まみれ
一度くしゃみをすれば舞い散りそうだ
そんな家の惨状に二有無はげんなりとする
「俺の家族さ、災害で死んだんだよね。何らかの事故で死んで、そして俺一人になったんだ。そこからさ国や政府から補助金を貰って何とか生き繋いでいたんだよ」
「でも.....そのせいかクラスの皆から臭いって言われてたんだよね。後他にもキモイだったかな.....。だからかな.....告白を受け取ってもらえなかったのかな.....」
二有無は何を言うまでもない藍火に向かってそう言った
藍火は反応するまでもなく、ただ二有無を見つめている
「.....」
だが、藍火はすくっと立ち上がった
そして、二有無の頭に手を添えて撫でた
「頑張ったね.....。今日は私に甘えていいよ」
そう藍火は再び泣きそうになっている二有無に向かってそう言った
その声を聴いて、わっと二有無はまた泣き出す
「うっ.....うぅ.....。何で僕こんな苦しい思いをしなきゃいけないの.....。両親が死んで、そしてまた酷い目にあわなきゃ.....」
「よしよし.....。頑張ったね.....。今日はゆっくり休んでいいよ」
ほぼ初対面だというのに
ついさっきまで恐れていた相手だというのに
二有無は彼女の胸の中で大泣きした
二人はその家で夜を明かす
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