第五話 泉くんは、もういない。(2)
「……瑞希さんのこと、泉から聞いてます」
「花!何言って――」
「とても素敵な絵を描く方だって」
「………」
顔がじんわりと熱を持つのが分かった。
泉くんが誰かにわたしの話をしてくれている。それがこんなにも嬉しいなんて。
「余計なこと言うなって」
「だって本当のことだもん」
「だからって本人に言うなよ」
ちらりと泉くんを見れば、ばっちりと目が合ってしまって。
「っ、」
少し慌てたわたしを見て、泉くんも少し照れたように笑った。
――それにしても。
「泉くんと花ちゃん、本当によく似てるね」
なんとなく顔立ちが似てるなんてものじゃない。お互いが鏡に映したように、顔のパーツがそっくりで。
「…双子?」
わたしがぽつりと呟けば、泉くんは静かに頷いた。
「じゃあ同い年なんだ」
新しく知った泉くんのことが嬉しくて。
わたしは何も見えていなかった。
「じゃあ花ちゃん、敬語なんていらないよ!」
「でも…」
様子を伺うように泉くんへと視線を送る花ちゃん。
「瑞希さんがよければ、花と仲良くしてあげて」
「もちろん!よろしくね、花ちゃん」
「……うん、よろしくね」
照れくささと戸惑いを混ぜたような顔で、花ちゃんは笑ってくれた。
同じ顔でも作る表情や仕草で、こんなにも泉くんと違うんだなって感じた。
花ちゃんは文句なしで可愛い。泉くんと同じようにわたしたちの学校に通っていれば、きっと泉くんと同じくらい人気が出ただろう。
「花ちゃんは今、泉くんのところに遊びに来てるの?」
「あ…えっと、」
「そうだよ。夏休みだから少しの間だけ、こっちに来てるんだ」
戸惑った花ちゃんの代わりに、わたしの質問に答えたのは泉くんだった。
「そうなんだ。いつまでいるの?」
「……明後日に、帰らなきゃいけなくて…」
「…花、」
明後日まで、と小さく答えた花ちゃんの声は語尾が小さく震えていて。
その瞳も悲しそうに揺れたのを見てか、泉くんも悲しそうに微笑みながら花ちゃんの頭を一撫でした。
「―――、」
――もしかしたらそれは、双子特有のシンクロだったのかもしれない。
それでも同じ感情を湛えて、まるで世界中でこの二人だけがお互いを分かり合えているのだと訴えてくるような。そんな言い知れない何かが、目に見えない何かが、急にわたしを孤独にさせた。
「あ、そうだ。もし瑞希さんが良ければなんだけど、明日、花と遊んであげてくれない?」
「「えっ」」
わたしと花ちゃんの声が重なったのは、当たり前の反応だと思う。いいアイディアだと言わんばかりに泉くんは笑って、『どう?』と薦めてきた。
「い、泉!そんなの、瑞希さんに迷惑だよ…っ」
「花にとって息抜きになると思ったんだけどなあ」
「でも…っ、」
「瑞希さんの人柄は俺が保証するよ。実際、俺が瑞希さんといて息抜きできたんだ。花もできるよ」
「っ、」
わたしといることが、泉くんの息抜きになっていたらしい。
そんな嬉しい事実を突然知らされて、わたしの顔は一瞬にして熱を持ってしまった。
「わ、わたしで良ければ…!」
そんな風にわたしを認めてくれた泉くんの力になりたい。
「わたしで良ければ明日、一緒に遊ぼう…?」
どうせ明日もわたしの筆は進まない。それならいっそ、泉くんに関わっていたい。
そんな想いだけで遊びに誘ったわたしに、花ちゃんは驚きで目を大きく見開いて。
「――…うん。ありがとう…」
それから少し照れたように顔を俯かせて、小さく笑って頷いてくれた。
「………」
その花ちゃんの頭を、泉くんが優しく微笑んでまた何度か撫でる。
そんな二人の姿は双子というより、歳の離れた兄妹のような、初々しいカップルのような、そんな雰囲気に包まれていた。
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