4月1日、僕らはみんな嘘つきで。

牧村 美波

第1話 珍獣、花屋に現る

「おい、なに見てんだコラ。オレは珍獣じゃねぇぞ。そんな目で見んじゃねぇよ。」

 珍獣である。

 珍獣が花屋に現れた。

 クラス一の問題児の宮地と花のイメージがどうしたって結びつかないのだから、そんな目で見てしまうのは仕方がないだろうと紺野は怯えて体が震えそうになるのを耐えてややうつむく。


 つい昨日の数学教師の大野と揉めて授業にならなかった様子を思い浮かべてもカワイイ花を愛でるタイプにはとても思えない。

 うたた寝を注意した大野に逆ギレした宮地は、だったら面白い授業をやってみろ!と自分の机を蹴飛ばして、騒ぎに気づいた両隣の教師と大野に生徒指導室まで連行された姿はまさにハンターに捕まった獣そのもの。

 花よりジャングルがよっぽど似合うのではないだろうか。

 

 そんな男が猫背でモジモジしながら小声で、女の人が好きそうな花はありますか?なんてバイト中の店内にやって来たのだから、驚きは隠せなかった。

 お互い私服ではあるが、180㎝の体格と細いツリ目が特徴的な宮地を見間違えようがなく、一目で分かってしまった。


「何で花屋なんかで働いてんだよ。」

「親の手伝いで土日はいるんだ…。」

「チッ。なんだ、お前んちかよ。」

「その花屋なんかにどういったご用ですか?お客サマ。」


 少しイヤミっぽいかと思ったが他人行儀な言い方は聞き流され、大人の女性が好む花が欲しいと言われた。


「大人ってどのくらいの?」

「はぁ!?お前には関係ないだろうが!」

 胸ぐらをつかまれそうな雰囲気に紺野は後ずさりするも、店員として話を続ける。 

 「そ、その人の雰囲気とか好きな色とか分かれば選ぶ花もイメージしやすいからだよ。」

 「なるほど…。少し年上で大人しめな感じの人で、ピンクとか好きかもな。予算的には3千円くらいの花束で…とか出来る?」

「じゃ、じゃあこんな感じでどう?」

 紺野が選んだ花を見て宮地はウンウンとうなずく。

 ラッピングをして花束を手渡すと大事そうに抱えて店を出ていった。


 歩いて行った方角を確認すると店のエプロンを脱ぎズボンからスマホを取り出した。

「お母さーん!今日上がっていい?」

 奥の部屋で作業中の母親に声をかけると、ここから近いクラスメイトに電話をかけた。


「あっ、今ヒマ?ちょっと面白いもの見れそうでさ。うん。一緒に見に行かない?」


 紺野はこの日、友人と動画のひとつでも撮ってやろうかと面白おかしく珍獣を見るような気持ちでいたことを後悔することになる。


 とても、すごく。

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