第5話 「異端者」、異世界へ転生する
「え? ようは貴族とか大臣とか将軍みたいなのっていうのでしょ? 外国とやりとりする……大臣っぽいのしてたんだっけ、あと将軍っぽいの。人間達の国をまとめる、そういうの」
そうきょとんとリィズは答えると、私はため息をして答えた。
「確かに軍を創立し兵を率いる立場だったし、内戦では軍を指揮して白軍と戦った。外務人民委員部の委員だった事もあるし、パーティーの中央委員会に居たりして、まあ、確かに大臣的でも将軍的でも確かにあったな。まぁ追放されて失ったが」
そうリィズにため息をつくように言い、今度は言葉を強めて言った。
「だが本来的には、私は職業は革命家だ。当然唯物論者で、無神論者だが……いやまあ……無神論者だったが、まあ……君達を前にそれを言っても仕方がない。その辺はもう諦めた」
と私は諦観した遠い目をしながらため息をついて言った。
「そういう立場だから、神がどうこう魔法がどうこうというのは、異世界での特異的な現象として受け入れるしかないが」と言葉を切り、厳しい声で言った。
「だが、神を敬えと言われても、敬うに値する人格や行いでなければそんなもの知った事ではない。私は無神論者だったが、あえて私が宗教的思考をすれば、神だから正しいのではない。正しいから神であるべきなのだ」
私は無神論者でもあったが、少なくとも「神だから正しい」という論理には、極めて抵抗が強く、「善なる存在でなければ、超越的な力を持っていても神ではない」という宗教観をあえていえば持っていた。
「また神から王権を受けて君臨していると主張するような王やら皇帝やらの『輩』が居ても知った事ではない。悪政を敷き暴君がいたら、神から授かったとか主張しようが、場合によっては粉砕する。いいのかね?」と確認した。
リィズは苦々しい顔をしながら、ため息をついて言った。
「王や皇帝を『輩』扱いって……はぁ……。もうその辺はいいわ……。少なくとも何を考えても貴方の自由なんだから」
と疲れたように言い、異世界における私のフリーハンドを主神とやらのリィズが保証した。ならば好きにしよう。
「まあ、一応おまけをつけてあげるって言ったし、人の生を終えたなら、貴方、嫌でも亜神になってもらわなきゃならないんだから、しばらく死んで戻ってこないように加護与えとくわよ?」と言い、ぱちん、と指を鳴らした。
「だいたいもう説明はしたし、まあものすごく不本意だし貴方から敬意の欠片も感じないけど、一応『主神フェンリィズの加護』を与えてあげたし、他の配下の神々には話を通しておくから、好きにするといいわ。それじゃいい加減転生させるわよ?」と面倒臭そうにいう。
すると、ずいぶんと長い間感じていなかった気がする、最初に感じた神聖さで心も身体も満たされ洗われ満ち満ちた気持ちが広がりいっぱいになる。
そして過ぎ去りし無限に近い存在の持つ、美しく威厳に満ちた表情ですべてを見通すかの目を輝かせ、まるで女神のような慈悲深い表情で微笑みながら腕を広げて言った。
「汝、異なる世界を次元を超え新たなる世界に根を下ろし、我が世で人の子として生きる許しを与えん。地へと降りて自らの生を咲かせよ……!」
薄いピンク色の光の洪水がリィズから発せられ、私は存在をまるでかき消されるかのように、その「場」から消え去る直前、「実際女神なんだってばーー!!」と遠ざかる声を最後に耳にし意識を失った。
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おぎゃぁおぎゃぁ。
薄いピンク色の何かをずるりと抜け、何やら息が詰まっていたのが空気が思い切り身体を満たし、眩しく薄っすらとした何かの姿が見える。
そうして、目が段々と慣れてくると、どうやらへその緒で繋がっていたらしい、恐らくは……というよりそれ以外ないが、「母」の胎内から私は出たらしく、初老の婦人が笑顔でその母に何語か分からない未知の言語で話かける。
銀髪を後ろで結び優しそうな人柄を感じる、「母」は、苦しそうな息が落ち着いてきながらも泣きながら喜びに満ちた顔で私の顔を見て微笑んだ。
おぎゃぁおぎゃぁと自分が泣いているのは自分だと気が付いて、急に恥ずかしくなって泣き止もうとするが、泣き止む事が自分ではできない。そういった不思議な感覚のまま、ああ、これが転生なのか、と生命の神秘を見たような、というより私自身が産まれたのだが、そう言う気分になった。
私は婦人に木で出来た、たらいの産湯につけられると、彼女が外に出て呼ぶように声をかけ、金髪が少し刈り上がったような若い男性が飛び込むように部屋に入ってきて「母」にものすごい笑顔で涙を浮かべながら労わるように優しさを感じる声色で声をかける。多分「父」なのだろう。
……私はそれを微笑ましく横目にしつつ、猛烈な眠気に襲われまたもや意識を失った。
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