第4話 「異世界ウェンディス」
「もうこうなっては、既に終わった事だし話が進まないのでは仕方ない。分かったなら泣かないでくれ。まず君の……リィズの世界に転生するとは、どういうことだね?」
ぐずっと泣き止もうとしつつ、涙は止まらないらしいリィズは、許しを乞うように言った。
「文字通り……今はそこに隠れてる、彼女が管理する世界から、私の管理する世界に、貴方を転生させる、って事で……あっ、もちろん、悪かったと思ってる、反省してる! ごめんなさい!」と、涙目で訴えらえる。
「……それは分かった、もういい。よくはないが、生き返せないならそこを議論しても仕方ない。しかし転生したらすべての記憶を忘れてしまうのか?」と尋ねる。
「それくらいは、残す事もできるわよ? ただ……人間の胎児の脳に収まる範囲かしら。具体的には貴方の今までの人生の記憶くらいは……」
その言葉に私はドキッとして、思わず動揺し詰め寄るように尋ねる。
「待て。さっきまで、というか、かなり長い時間、君から聴いた世界の真理については覚えていられるのだろうな?! メモすら取ってないんだが……!?」
びくっとして彼女はふるふると頭を振って、否定した。
「赤ちゃんの……いえ、成人だろうと、人間の脳には、というより、他のどの種族でも、古龍であっても、無理……。でも貴方がこの場に戻ってきたら、思い出せるわ。この場は一種の、魂の記憶の『場』だし、だからこそ貴方は人知を大幅に超えた真理を理解し記憶できたのよ」
と、そう答えると、リィズはまた勝ち気な感じに剣幕を変えた。
「ここまで根掘り葉掘り聞かれてとんでもない記憶を抱えた人の身は初めてよ! つい教えちゃった私も悪いけど! これだけ色々知っちゃったなら貴方、知識をここに余分な保存しておかないと、身体が情報量に耐えられず脳が破壊されて瞬時に死ぬわ」とにらんでくる。
「だからここで記憶……情報を保管しておいて、貴方が人間の生涯を送った後に、非常に不本意な話だけど、あれだけの事を知った貴方を生命にするわけにもいかないから、亜神にするしかないのよ。神になれるのよ? 神! ちょっと感謝しなさいよ?」
と、勝気な性格もあるのか、ちっちゃいくせに何故か見下ろすように信じがたい事を信じがたい物言いで言う。
「な……なんだと!? 私が得た世界の真理を、私は忘れねばならないとは……おい、残酷すぎるだろう……?」と、よろめくように崩れながら私は言った。
しばらくの葛藤の後、「……私の得た知識はこの『場』に保存されるのだな?」と尋ね、リィズがこくりと頷くと、「まあ転生については大幅に譲歩して納得した」と答え、気になっていた事を尋ねた。
「そういえば、その異世界とやらは、どういう世界なんだ? 物理法則とか色々あるだろう?」
それに対してリィズは「待ってました!」というような顔をして、急に腰に手を当て誇らしげに言った。
「それはもちろんすごい世界よ! 剣と魔法のファンタジーの世界、異世界「ウェンディス」! 魔法のないこの世界の人間なら、ワクワクするでしょ? まあ、地球と物理法則は同じだし、だいたい地球にとても環境が似てるから、生活で違和感はないはずよ!」と胸を張って言う。
「まあ、魔法はそれから外れるわ、魔法は、仕組みと言っても、また長々長々と話す事になるから、したくないけど……」と付け加えるように言い淀む。
私は聴き間違えの可能性を考えて、「……魔法?」と訝しげに尋ねた。
「そう! 魔法よ! まあ、私の世界だと、正確にいえば精霊術みたいなもので、それぞれの神の力や、神の眷属や天使や精霊とかの力を借りるのよ。様々な事を司ってる神が居て、その神の信徒となって力を借りるっていうわけ」
とリィズは器用にもウィンクしながら答えた。
「私の世界での真理を聴いた時は魔法の概念はなかったが……ふむ、文字通り異世界、なわけか」と唸りながら困っていると、リィズは、にやりと得意げに言った。
「つまり、私の下にいる神々や眷属や天使や精霊達の力を貴方は借りる事になるの。私はその世界では、創造主様に従い、それぞれの配下の神々の事を『主神』として管理し調整するような立場ね!」と誇らしげに言う。
「つまりは中間管理職というわけかね」
というと、がくっとオーバーリアクションに思えるほど、「私傷つきました」的な表情をして、「貴方みたいなデリカシーのないひと、嫌い……」と呟く。
「ああそうだ、最後に聴きたいが……そもそも私の地球での職業や立場を知っているのかね?」と念のため確認した。
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