のらねこレストラン

ほくらいきてる

のらねこレストラン(1)

 東京都北区に猫が多く住む地域がある。上中里二丁目である。

 界隈を百メールほど歩けば、必ず猫に出会う。

 どうして猫が多いのか、詳細な理由はわからないが、猫にとって驚異となる自動車の往来が少ないことが、理由の一つかもしれない。

 上中里二丁目は、京浜東北線と東北本線の二本の線路に挟まれた中洲のような場所で、道は細く、細く入り組んだ路地があたりをうねりつくしている。知らずに車で入り込んでしまうと、たとえカーナビや地図アプリがあったとしても、出られなくなる。通れそうで通れないトラップがあり、電柱と塀の間などに、車がはまり込んでしまう。

 魔境といっていい。

 三月下旬である。

 楠木薫くすのきかおるが、引っ越しの下準備に上中里を訪れた。

 春である。

 桜は、温暖化のせいで、咲き始めも散り始めも早くなり、陸橋の付近に毎年咲く桜が、ちょうど華やかに満開の姿を見せていた。

 大学入学に合わせ、薫は、去年亡くなった祖母の家を使うことにした。上中里二丁目にあるその祖母の家から大学に通うのが便利だからである。

 引っ越し直後。奇妙なほど猫が多い場所だ、と薫は感じていた。

「まったく猫が多いですね、ここは」と、猫と目があうたびに、薫は独り言を言っていた。

 自宅の庭に入ってくる猫を数えると、一週間で、十匹もいる。

 その中に人懐こく、餌をねだってきた可愛い子猫がいた。

 子猫の背中には十字の模様がある。キリスト教との連想で、薫は子猫をホーリーと名付けて、飼い始めた。

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