第8話 王子の事情 ※パトリック王子視点

「こんなに震えて……。もう大丈夫だよサブリナ。美しい君をイジメる偽物の聖女は追放したからね」

「はい、ありがとうございますパトリック様」


 クローディが婚約破棄と国外追放が言い渡された卒業式パーティーが終わった後。サブリナを自室へと連れ込んだパトリック王子。今は人払いをして二人っきりで、ベッドの上で抱き合っていた。


 この関係は、少し前から始まった。婚約者であるクローディの悪事について、サブリナからパトリック王子に密告があった。


 パトリック王子は、サブリナの言葉を信じて同情した。そして、婚約相手の行為に心を痛めた。サブリナを助けようと決意して、何度も会うようになった。それから、愛し合うようになるまで時間はかからなかった。


 パトリック王子は、クローディとの婚約を破棄するのも、国外追放するのも当然の権利だと考えていた。


 悪いことをしたのはクローディの方である。それを理由に婚約を破棄した。


 それに今は、彼女よりも愛しい人がいる。父様だって、一目惚れして無理やり母様と結婚したことをパトリック王子は知っていた。なので自分だって、好きな相手を自由に選ぶ権利があるはずだ。そう思っていたのだ。


 今も、王宮の奥に引きこもっている両親。王様なのに政治にも参加しないで、他に全て任せっきりの親なんてどうでもよかった。それは、自分の好きにしていいという許可をもらったようなものだとパトリック王子は勝手に考えていた。


 自分よりも歳上なのに、見た目は子供のようなクローディを愛せよというのが彼には無理だった。変態貴族のような性癖は持ち合わせていないし、自分はノーマルな趣味なんだと常に思っていた。いつか、彼女との関係を解消したいと思っていた。


 まさかイジメを行っているなんて知らなかったけれど、それは都合よく婚約を破棄するための理由に使えた。


 だから、クローディと婚約を破棄できたことは彼にとっては満足の結果であった。それから、見た目が幼いクローディとは比べ物にならないような美しい大人な女性のサブリナと愛し合えるようになった。パトリック王子にとって最高の幸せであった。


 近くに居たら面倒なので、国外へ追いやることにも成功した。


 流石に、子供のような見た目の女性を処刑するのは気分が悪い。だから、遠くまで追い払うことで許してやる。サブリナも、これで怖がらないで済むだろうから。


 それが慈悲だと、パトリック王子は本気で思っていた。


 元婚約者のクローディと再会することは二度とないはずだ。今の自分には、愛しいサブリナが居るから。彼女だけで十分だと思っていた。そんな彼女をイジメた罰を与えることも出来たから。


 両親のように自分も、サブリナと愛し合う。そして、父様と同じように次の世代にさっさと引き継いで、政治からも離れて自由気ままに暮らすんだ。そんな風に彼は、婚約相手だったクローディという邪魔者を追い払った後の将来について考えていた。

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