白い・・・・何!?

 訪れたお客さんは、丸い眼鏡にセーターロングスカートという可愛らしいが落ち着いた格好をしていてその顔には疲労や睡眠不足は全くと言って良いほど見られない。アロマを買いに来たお客さんかもと思いながら接客をしようと近づく。


「いらっしゃい・・・・ませ」


 ふと足元を見るとスカートの裾が変に盛り上がっているのが見えた。それはまるでそこに何かが居るかのような・・・・接客はしながらも足元ばかりに注意が行ってしまう。


「あれ?初めましてですね?夢食さんはいらっしゃいますか?」

「今は奥の部屋に行ってしまってますが居ますよ」

「そうですか、良かったです」


 お客さんの反応を見る限り気付いてないのか・・・・?いやでも、明らかにスカートが盛り上がってるし中に何かいたら絶対気付くよな。あ、動いた!


 謎のふくらみは足を一周するかのようにに動くとスカートと地面の隙間から小さな白い足のようなものが見えた。


 え!?動物!?もしかして、犬とか猫をその中に入れてるの!?流石にそれはヤバくないか!?


 いくら猫や犬が好きだからと言ってリードもつけずスカートの中に入れて連れ歩くのは良くないんじゃないか?それに、飲食店じゃないからって動物を店内に入れるのはちょっと・・・・お客さんの中にアレルギー持ちとか居たら困るしどうやって注意しよう。


「あの・・・・」

「あ、はい!」


 やべ、流石に足元見過ぎで変な人だ思われたかも。いやでも、こんな状況で足元を見ない方が無理だろ!


「もしかして、見えてます?」

「え、見えてますって・・・・」

「さっき程から私の足元を見てますから、もしかして見えてるのかなと思いまして」

「え?そりゃ勿論」

「あ、やっぱりそうですか。なるほど、夢食さんが雇う訳ですね」


 見えてますって・・・・そりゃそんなに不自然なふくらみがあったら誰でも見えるだろ。それに、それが見えてるのと俺が雇われてるのに何の関係が?え、もしかしてヤバい人?助けて夢食さん!


 言いたいことが分からず眉間に少し皺寄せながら首を傾げていると、タイミング良く奥から夢食さんが戻ってきてくれた。もう夢食さんが救世主に見えるよ!!


「ん?あぁ武蔵坊さんいらっしゃい」

「お邪魔してます。それと、その呼び方止めて下さい」


 お客さんを見た夢食さんは笑いながら出迎え、名前を呼ばれたお客さん軽くお辞儀をする。この人武蔵坊って言うんだ・・・・こういうこと言っちゃいけないと思うのだが、苗字いかついな!だけど、カッコイイ!!!いや、そんなこと考えてる場合じゃなかった。苗字とかじゃなくてこの人どうしたら良いのかと、夢食さんに目で訴えかけるとその様子を見て笑いながら


「あぁ、そういことか」

「新人さんとお話ししてたんですが今時見える人なんて珍しいですね」

「まぁ一般人で見える奴は珍しいな」

「私はこの子だけなんですけど、新人さんはどれくらい見えるんですか?」

「え?え?」

「纏さん、こいつまだ状況を理解できてないんだよ」

「え?・・・・もしかして教えてないんですか?」

「あぁもう少し後になったら教えようかと思ってたんだ」


 この子?見える?一体何のことを言ってるんだ?


「ほら、話してやるからこっち来い。纏さんはこの後時間ある?」

「えぇ今日はこの後何もやること無いので、貴重な同士を見つけたことだしお話に参加させてください」


 そう言って纏さんは、夢食さんの元へ行くので俺も後ろを付いていく。纏さんが靴を脱ぎ畳に上がろうと足を上げた時、スカートのふくらみの正体が隙間から見えた。白くモフモフしているが、動きが素早く狸とも狐ともとれるような丸い体。こんな生き物は見たことが無い。


「白い・・・・なんですかそれ!?」

「それについては後で説明してやるから早く座れ」

「あ、ちゃんと見えてるんですね良かった」


 絶対に見えたはずなのに夢食さんも纏さんも全く動揺を見せない。え、俺が可笑しいのか?しぶしぶ俺は言われた通りに座布団に座り、纏さんは女の子座りをするとやっぱり足元は膨らんでいる。その異様な姿に目を奪われていると


「まずは、自己紹介からだな」

「そうですね、まずは私から。私は武蔵坊纏むさしぼう まとい夢食さんと同じ23歳よ。纏って呼んでね。趣味は読書と神社参り、よろしくね」

「え、あ、朧月覚です!15で趣味は・・・・特になしです」

「わ~ピチピチの高校一年生か~若~い」


 微笑みながら自己紹介をしてくれて有難いのだが、それより足元が気になる!!


「あの、それで纏さんのその足に居る生き物は何ですか?」

「ふふ、何でしょう」

「えぇぇ」


 クスクスと笑う纏さんと夢食さん。絶対俺の反応見て面白がってるだろ!


「教えてくださいよ~」

「そうだね~ヒントをあげるよ。そこで面白がっている店主さんと同じような存在だよ~」

「夢食さんと・・・・?」


 え、あの真っ白な動物と夢食さんが全くと言って良いほど結びつかないんですが!?


 ふぅ・・・・冷静に考えろ・・・・謎の生き物、見えてる、同じ存在・・・・まさかと思い夢食さんを見ると笑いながら頷く。


「妖怪ですか!?」

「せいかーい」

「おめっとさん」

「えぇええ、妖怪ってそんな見た目の奴いるんですか!?」

「そうだよ~紹介してあげるね」


 俺は自体が呑み込めずいると、纏さんは足元から手をスカートの中に入れると白い毛皮に覆われた四本足の小さな動物を取り出し膝の上に置いた。突然出された動物は驚いた様子を見せたが、俺と目が合った瞬間俺に向かって跳び込んできた。


「うわぁあああ」

「襲ったりしないから大丈夫だよ」

「ははっ」


 いきなり跳んできた妖怪に驚いて思わず立ち上がってしまった俺を纏さんと夢食さんは笑いながら見ている。跳び込んできた妖怪は俺の脛に全身をこすりつけながらグルグルと忙しそうにそして楽しそうにしている。こんなに触られているが、偶にふわっとした感触があるけど重さなどは全くなくとても不思議だ。


「こいつは、何してるんですか?」

「そいつはな、脛こすりっていう妖怪なんだよ」

「脛こすり?知らないです!」

「まぁそこまで有名な奴じゃないからな」

「ワフッ!」

「鳴いたぁ!?」

「モフちゃんは人の言葉理解してますからね~」

「そうなんですか!?てかモフちゃんって!?」


 慌てる俺とは対照的に落ち着いて話す2人にちょっと文句を言いたくなったがぐっと抑えて聞くと纏さんが笑いながら


「この子の名前ですよ~」

「もしかして、夢食さんみたいに動物の姿になってるだけとかなんですか!?」

「いや、こいつはこの姿しか持たないぞ」

「そうなんですか!」

「いい加減落ち着けって、ほら立ってないで座れ」


 立ちながら叫ぶ俺に呆れながら夢食さんが言う。いや、座れって言われても足元に脛こすり?モフちゃん?が居るから座れないんですけど!


「その子は頭が良いので邪魔にならないように動きますから自由に動いて大丈夫ですよ」

「そうなんですか・・・・?」


 俺は恐る恐る腰を下ろし足を畳み正座をすると、足元を動き回っていた白い動物は俺の膝に乗り落ち着いた。


「うわっ」

「大丈夫、害はありませんよ」

「・・・・軽いですね」


 いきなり乗ってきたことに驚きはしたが纏さんに諭されて、落ち着いて脛こすりを見ると犬やキツネ、タヌキと似たような姿をしているがどの動物でもない白い体に大きな尻尾。一番似ている動物は犬だが小型犬ぐらいはあるのに重さをほとんど感じないことに驚く俺。


「この子は気を遣って軽くなってくれてるんですよ。普通はもっと重さがありますから」

「重さを自由に変えられる力を持った妖怪ってことですか?」

「いえ、軽くなることは出来るみたいですが元の体重以上に重くなることは出来ないみたいです。ですよね、モフちゃん」

「ワフ!」

「おぉぉぉ、本当に言葉を理解してるんですね」

「撫でられるのが好きですから、是非撫でて下さい」

「え?」


 ようやく慣れてきたの自ら触りに行くのは流石に難易度が高くないか?でも、纏さんはニコニコと笑ってるし脛こすりはこっちを期待した目で見ている。ちょっと怖いけど、害は無いって言ってたし・・・・覚悟を決めて思い切って触ってみると見た目通りふわふわとした長い毛に生物特有の柔らかな感触。しっかりと手入れがされてるのか、毛は艶々と輝きシルクのような触り心地だが柔らかさがしっかり感じる・・・・これは中々癖になりそうだ。


「うわぁ・・・・凄い気持ち良い」

「ですよね?」

「慣れたようで良かったよ」


 俺は夢中で脛こすりを撫で続けたが、脛こすりは嫌がる事無く全身を俺に預けてくれ触って無い場所が無い程撫で満足するといつの間にか二人はお茶と大福を食べていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る