夢は想像力

 夢の事について話した後俺は夢食さんに何が何処に置いてあるのかやお金は何処に仕舞っているかなどを一つ一つ教えて貰っていると夢食さんの携帯のアラームが鳴り


「お、時間だな。お客さん起こしてくるからこっち頼んだ」

「分かりました」


 あっという間にお客さんを起こさないといけない時間になっていたようだ。暫くすると夢食さんはお客さんと一緒に戻って来た。お客さんは来た時より疲れが取れている様で血色も良くなっているように見える。


「おはようございます」

「あ、ありがとうございます」

「これ渡しておきますね。寝る時間になったら枕元に置いたり、緊張している時は嗅いでみてみると良いですよ」


 もう外は暗くなって9時になっているというのにおはようございますは少し変な気がするけど、ここではこの言葉が合ってるだろう。夢食さんはさっき包んだアロマワックスサシェを渡すと、中を見たお客さんが


「可愛いですね・・・・それに良い匂い」

「半年ぐらいは香りが持ちます。ただ蝋で作ったものなので熱に弱い。なので日光に当たらない場所に保管してください。それと衣服なので蝋が付いてしまう事もあるので保管には気を付けて下さいね。説明書も一緒に入れておいたのでそれを見れば大体の事は書いてあります」

「ありがとうございます・・・・あのお金」

「いえ、それはサービスですから大丈夫ですよ。もし気に入って頂けたら他の香りも用意しますのでまた来てください」

「はい、そうします」

「もう暗いですから帰り道に気を付けて下さいね」


 そう言って俺達は店の入り口までお客さんを見送った。お客さんはたまに俺達の方を振り返りお辞儀してくれたので俺達もお辞儀を返し姿が見えなくなると


「さて、そろそろお前も帰る時間だな」

「そうですね~」

「明日はお前の父親が来るんだろ?それに備えてもう上がっちまえ」

「え?良いんですか?」

「おう、お疲れ様」


 俺は予定より早い時間で上がらせてもらうと、父さん達が待ってる家へ急いで帰ると昨日と同じように父さんは椅子で本を読み母さんはテレビを見ていた。


「ただいま」

「「おかえり」」

「父さん明日店に来るんだろ?」

「そのつもりだ。確か求眠堂だったな?」

「そうだよ、店の場所少しわかりづらいから明日一度家に帰ってくるから一緒に行こう」

「む、分かった」

「あら、お父さん覚の職場に行くの?」

「あぁ話を聞いてると怪しい場所にしか思えないからな、一度見ておいた方が良いだろう」

「確かに、あまりに好待遇過ぎだものね」

「母さんも来るか?」

「ん~お父さんに任せるわ」

「任された。しっかり見極めてやろう」


 父の意思は変わらず求眠堂に来る気満々だ。まぁもう夢食さんに相談して問題無いって事が分かったから別にいいけどさ。だけど、高校生にもなって親が来るってなんか少し恥ずかしいというかモヤモヤするというか・・・・


「覚、お風呂入れてあるから入っちゃいなさい」

「はーい」


 母さんの言う通り風呂に入って布団に入ると、今日は言われた通り現実からかけ離れた夢を見ないとな。と言ってもどんな夢を見ようかな・・・・


 そんな事を考えながらベットで寝ていると、俺はいつの間にか人通りの多い町中でポツンと立っていた。周りは騒がしくそして淡々と歩いているが、立ち止まっている俺を気にする様子はない。あぁこれは


「夢か」


 うだうだと考えている内に寝てしまったらしい。俺の事を気にせず歩いて行く人々をぼんやりと見つめているといきなり時が止まったように音が消え、一定のスピードで歩いていた人々が固まり頭だけをバッと一斉に俺の方を向いた。


「こわっ!!!!」


 俺の事を見る人々の目は何も映さず只々虚空が広がっていた。表情も真顔でより不気味で俺は大声を上げて驚いてしまった。


「はぁこんな不気味な夢は勘弁だな。さっさと変えるか」


 止まり俺の事を凝視している人々の視線に耐えられないので、さっさ消してしまおうと思い浮かんだのは鉄とコンクリートの塊に囲まれた場所では無く正反対の学校の桜の事だった。


「そうだ、花見をしよう」


 悪夢に苦しめられていたせいで綺麗に咲いている花の事なんか気にしなかったし、花見なんて何年もしてない。俺達が住んでいる近くに花見をできるような場所は無いっていう理由もあるけどそこまで興味が無かった。思い付いたら即行動と思い、街と人々を消し桜を思い浮かべると大きく立派な桜が現れたが


「桜・・・・だけど流石に一つは寂しいな」


 現れた桜は一本だけで周囲には白い空間だけが広がっているという異様な空間が出来てしまった。


「桜だけを想像したのが悪かったのかな・・・・もっと具体的に想像しないと」


 あまりにも寂しい光景を何とかするために多くの桜が咲き乱れ緑豊かな草原と綺麗な青空と太陽を想像しなおすと、周囲はぼやけ景色が変わっていく。


「そうそう、こういうの!」


 昔テレビで見たような桜の絶景が目の前に広がり満足した俺は桜の木の下に座り、ゆっくりとこの絶景を楽しむことにした。


「そういえば・・・・昔父さんに連れられてこんな場所来た気がする」


 もう殆ど憶えていないけど本当に小さい頃は休みの時間が長かったし自由な時間が多かったから、父さんのフィールドワークについて行ってたんだよな。でも、小学校3年生ぐらいの時から友達と遊ぶことが楽しくなってついて行かなくなったんだ。


 今思い返してみると勿体ない事したな~


 父さんは本当に色々な所にフィールドワークに行ってたから良い経験になっただろうし楽しめたと思う。それに、妖怪の事を色々知れただろう。妖怪の事を色々知ってれば今のバイトの役に立ったかもしれない。昔を思い返しながら景色を楽しんでいると、遠くから電子音が聞こえてくる。


「もう朝か、夢の中って時間が経つのが早いな」


 電子音は聞こえてくるが、目覚める時には周りが淡い泡のように消えていく目覚めの前兆がまだ来ない。体が起きるのに時間が掛かっているんだろうと思っているとふと思い出した物があった。ポケットに手を入れてみると、携帯と共に夢食さんに貰った木彫りの鈴が出て来た。


「夢の中でも持ってるのか、本当に不思議な鈴だな~」


 俺は言われた通り耳元に鈴を持ってきて優しく揺らすと、軽いようで深く高い聞き心地の良い鈴の音がリリーンと三回鳴り響くといつも淡く泡が弾けるように消えていく風景がまるで紙芝居のように一瞬で消え去り、次に見えた光景は何時もの自分の部屋だった。


「本当に目が覚める鈴なんだな・・・・」


 俺は初めて不思議な鈴による効果を体験し感嘆の声を漏らしながら、なり続けている携帯のアラームを消し付いている鈴をもう一回耳元で揺らしてみたがあの聞き心地の良い音色がなる事は無かった。


「起きてると鳴らない訳か・・・・本当にどうやって作ってるんだこれ」


 謎の技術に俺は首を傾げながらも朝の準備を終え、朝食を摂り学校に出かける前にまだテーブルでコーヒーを飲んでいる父さんに向かって


「それじゃあ、学校終わったら迎えに来るから」

「分かった、いってらっしゃい」

「いってきます!」


 何時もと変わらない道を歩き、何時もと変わらない満員電車に乗り人の波に押されるように学校に辿り着くと俺に気付いた3人が


「おはよ!」

「あはよう」

「おっはよ~」

「おう、おはよう」


 俺は席にリュックを置くと三人の元に行き


「何話してたんだ?」

「実はさ、俺と大和が来週の金曜部活と稽古が休みだからどっか遊びに行かないかって話してたんだよ。覚はバイト休みか?」

「その日なら大丈夫だけど」

「よっしゃ!じゃあ遊び行こうぜ!」

「おう!何処に行くんだ?」

「ん~まだ決めてないけどゲーセンとかカラオケ行こうぜ」

「お、良いな」


 バイトは何時でも良いって言ってたから来週の金曜は休みにさせて貰おう。貯めてたお小遣いもあるから遊ぶお金はあるから大丈夫だな。俺達は来週の予定を話していると担任が入ってきたので一旦席に戻ると


「遊びに行くの?」


 霧浜さんが話しかけてきたので


「そ!」

「良いね、楽しんできてね」

「といっても来週だけどな」


 あ、もしかして霧浜さんも誘った方が良いのか?でも男4人に女子1人はバランス悪いよな。迷っていると授業が始まってしまったので、授業に集中し過ごしていると放課後になった時にはもう悩んでいたことは忘れてしまった。

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