どうしよう、夢食さん

次の日、学校が終わった俺は何時も以上に急ぎ走り求眠堂へと駆け込もうとしたが昨日言われたことを思い出し扉の前で深呼吸し勢いよくだが静かに扉を開けるといつもの場所で夢食さんはお茶を飲んでいた。


「おう、いらっしゃい」

「夢食さんどうしよう!?」

「何だなんだいきなり」


 焦っている俺を見て吃驚する夢食さん。近づき昨日の夜あった出来事を説明すると、顎に手を当て少し考えた様子を見せた夢食さんは俺の目を見ながら


「まぁ親父さんの言い分は納得出来るな。大事な息子が変な場所で働いてるんじゃないかという不安になるのは当たり前だ。しかも、あの仕事内容を聞いただけだったらより不安になるだろうな」

「どうしよう、どうしたら良いですか!?」

「別に来ても良いぜ」

「え!?良いんですか?」

「来たからって何の問題があるんだ?別に怪しい商売をしている訳じゃねーし、人様に見せたって恥ずかしくないようにはしてあるぜ」

「だって妖怪のことを話しては駄目だって・・・・」

「あのな妖怪の事を話すなとは言ったけど、店の事を話すなとは言ってないだろ?俺が妖怪だと言う事と店の事は直接的な関係性は無いしいくら店の事を探られたとしても妖怪だと言う事がバレる事は無いだろ」

「あ、そっか」


 夢食さんに言われて気付いたが、妖怪の事を秘密にしろとは言われたけど全てを秘密しろとは言われてなかったんだった。だから、別に店の事を話しても問題無いしいくら店の事を調べても夢食さんが妖怪だって分かる訳ない。


「お前アホだろ・・・・」

「酷い!色々焦って頭が周って無かっただけでアホじゃないです!」

「もし自分が働いてる所を見られたくないなら俺が挨拶に伺っても良いがどっちが良い?」

「え、夢食さんが俺の家に?う~ん・・・・」


 挨拶しに来てくれたら父さんの印象も良くはなると思うけど、職場を見たいって言ってたからな~


「多分ですけど、店に来た方が父さんは納得してくれると思います。あの人、気になったらまず行動する人だから、ここで紹介しておかないとそのうち自分で来そうな気が・・・・」

「あ~確かにそういう人だなお前の親父さんは。じゃあ店で待つことにするよ」

「なんか本当にうちの父がすみません・・・・」

「良いんだよ、子供を心配するのが親ってもんだ。俺もお前を預かってるんだからしっかりと話さないといけないしな」

「お願いします」


 どうしようかと焦っていた問題は夢食さんによってあっという間に解決してしまい、俺は仕事着に着替えさせて貰い昨日と同じように清掃をしていると突然扉が開き中に入ってきたのは俺と同じぐらいの歳の制服を着た女の子だった。俺が働いている間に来た初めてのお客さんに驚き少し反応が遅れてしまったが


「いらっしゃいませ」

「あの、ここが求眠堂で合ってますか?」

「はい、そうです。眠りについての相談でしょうか?」

「そう・・・・です」

「ご案内しますね」


 声を掛けてみると俺の格好に驚いた様子を見せたが鈴の音のような可愛らしく小さな声で訪ねてくるお客さん。俺は笑顔で接客し夢食さんの元へ案内する。


「いらっしゃいませ、ここは求眠堂、睡眠に関する悩みを解決する場所。何か御用ですか?」

「あの・・・・眠れなくて・・・・」

「なるほど、不眠についてですか。それでは、まずこの店の仕組みを説明させて頂きます」


 夢食さんは何時もと同じ説明を学生のお客さんにして、俺は夢食さんの後ろで聞いていると


「今後ろに居る従業員もお客様のプライバシーを侵害することはありません。もし、一対一の方がよろしければそういたしますがどうなされますか?」


 いくら従業員になったとしても、何でも聞いて良い訳じゃないもんな~


 自分の悩みをあまり多くの人に打ち明けたくないという気持ちもあるだろうし、まだ会ったばかりの人と一対一の状況になるのは緊張して嫌っていう気持ちもありそうだ。夢食さんは初見だと着物姿に驚きはするが、緊張感や警戒心を煽るような顔はして無いし接客の時は丁寧だから怖くは無い。段々慣れてくると雑な所や胡散臭いところはあったりするけどな。


「えっと・・・・一緒でも大丈夫です・・・・」

「分かりました。それでは、不眠の症状について詳しく伺ってもよろしいですか?」

「はい・・・・」


 少し話しづらそうにしていたが、大きく息を吸い深呼吸すると語り始めてくれた。


「きっかけは分からないんですけど、二か月前から突然眠れなくなってしまって・・・・やっと眠れたと思ったら一時間ぐらいで目が覚めてしまうというのが続いているんです。そのせいで毎日が怠くて辛いし疲れも取れなくて学校に集中も出来なくて一体どうしたら・・・・」

「なるほど、眠れないというのは辛いですよね。不眠について病院に掛かれたことはありますか?」

「いえ、わざわざ病院に行くほどじゃないと思って」

「なるほど、この店でも睡眠に関する悩みを解決しますが長く続くようでしたら一度病院の診断を受ける事もお考え下さい」

「はい・・・・」


 俺は悪夢に悩まされていて眠れない日々が続いていたけど、悪夢ぐらいで病院に行くのは少し大事にし過ぎてる感じがある。だから、俺は病院にはいかなかったけどこの人も多分同じだろう。


「きっかけは分からないと言ってしましたが悪夢などを見る事は無いのですね?」

「悪夢は・・・・見てません」

「夢か何かを憶えていたりしますか?」

「いえ、全く」

「分かりました。不眠の原因は多岐にわたるので、まずは原因を絞っていきましょう。学校に通られているのですよね?不眠症では無かった時は朝何時に起きてましたか?」

「大体7時くらいです」

「ありがとうございます、それでは就寝時間を教えてください」

「遅くても11時くらいだと思います」

「ふむ、生活リズムは問題が無さそうですね。それでは今はどうなっているか教えてください」


 夢食さんは学生さんの話を逃さずメモしていく。俺もメモしておいた方が良いのかなと思ったけど、個人情報を個人でメモするのはあまり良くないと思い、個人情報より夢食さんの接客の手順を憶えようと集中して聞く。


「今は9時くらいには布団に入るようにしてるんです。寝付くまで時間が掛かるのでそのくらい早くベットに入らないと駄目なんです。それで数時間寝付けずにやっと寝れたと思ったら1時間くらいしか眠れなくておきてはまたベットの中で眠れずに朝が来るというのを繰り返してる感じですね・・・・」

「ふむ・・・・」


 夢食さんは少し考える様子を見せると


「入浴などは就寝する直前に行いますか?」

「そうです。寝る直前に入ってすぐ布団入るようにしてます」

「入浴を就寝の一時間ぐらい前に持ってくることは可能ですか?」

「はい・・・・できますけど」

「人っていうのは体が温まってから、通常の体温に戻る時に睡眠の質が上がり眠り易くなると言われているんです。入浴中にマッサージをすれば血行が良くなり体の緊張がほぐれ眠りやすくもなる。やり方は後ほど教えますね」

「はい、分かりました」

「聞いている限りだと生活リズムには問題が無いように思えるので、他に原因があるとすると日常生活のストレスや日常で服用している薬などの可能性がありそうですね。何か持病などはお持ちでしょうか?」

「いえ、無いです」

「それだと、日常のストレスはどうですか?二か月前ですと時期的には新学期が始まる前ですよね。何か学校への不安やストレスがあったりしますか?」

「それは・・・・」


 それまで少し気弱そうな様子を見せていたが質問にはしっかりと答えていたお客さんが言い淀む。それを見て夢食さんは、


「初めてあった人に個人的な事を話すのってとても抵抗があると思うんです。それなのに、質問に答えて下さりありがとうございます。私が個人情報を外に漏らすことは決してありませんし、お客様の友人や親族にお話することはありません。ここは安眠をもたらす場所、誰も貴方を責めたりしません」


 優しく夢食さんが話すと、少し迷った様子を見せたが意を決して話し始めてくれた。


「私今年の春に高校生になったんですけど、私昔から変化に弱くて・・・・小学校から中学に上がる時も同じことがあったんです。その時は段々と治っていったんですけど、今回は治る様子が無くて・・・・」

「環境の変化がストレスになっていると言う事ですね?」

「はい・・・・」

「なるほど、人間は変化に弱い生き物ですから環境の変化は大きなストレス要因になりますね。ストレス要因を解消しなければ不眠を治すことは難しいのですがまずは、睡眠不足を解消させた方が良いですね一旦寝てみましょう」

「え、はい・・・・」

「何か好きな匂いはありますか?」

「好きな匂い・・・・花の匂いは好きです。だけどバラはあんまり・・・・」

「畏まりました」


 夢食さんはその言葉を聞き立ち上がるとアロマが置いてある棚に行き複数の瓶を持ってきた。



 

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