初めてのアルバイト
衝撃の話から翌日、俺は親に書いて貰った同意書をカバンの中に詰め込み登校し友達と昼食を摂っていた。昨日夢食さんとは連絡先を交換したので、今日の夕方同意書を持ってお店に行きますと送ると、すぐに既読が付き了解とバクのスタンプが送られてきた。こんなスタンプもあるのかと感心していると、
「あれ、覚可愛いストラップ付けてるな」
そう言ったのは体育の授業でペアになり友達となった
「動物だよねそれ~かわいい~」
爽太の言葉に俺の携帯を見て、のんびりと話すのは
「恐らくだがバクか?」
夢食さんから貰ったストラップの正体を当てたのは、
「よく分かったな。そ、バク」
「バク~?アニメとかで聞いたことあるかも?」
「え?動物じゃねーの?」
「バクは動物でもあり妖怪を示す名前でもある。妖怪のバクは悪夢を食らうと言われているな。朧月は睡眠に悩まされているようだったから、それを付けてるのか?」
「そうそう、お守りみたいなもん」
そういって俺はバクのストラップを揺らす。これは、俺が生活していくうえで必要になるって言ってたし日常的に持ち歩き忘れないものと言えば携帯だ。丁度手帳型のスマホケースを使ってるから付けておいたのだ。
「へ~良いなそれ」
「だね~木で出来てるのが渋いというか」
「味があるな」
友人達にはこのストラップは好評のようだ。貰ったストラップには、夢から覚めるという特別な力があるがこれは一体どうやって作ってるんだろうか。木彫りされたバクは市販品のようなものではなく一つ一つ手彫りされているように見える。
「あ、そうだ。今日遊びに行かね?今日部活休みなんだよ」
「俺は良いよ~」
「俺も問題ない」
「悪い!今日からバイトが始まるんだ」
「ありゃ、そうなのか残念」
「すまん!俺抜きで言ってくれ」
「また今度だな」
「バイト始めるんだ~何のバイトするの?」
「宿泊業だな」
「良いね~」
「良いなバイト~俺は部活があるからな~」
「うむ、俺も経験してみたいのだが家に帰れば道場があるからな」
夢食さんはいつでも良いと言っていたが、色々早く聞きたいことがあるから今日は外せないのだ。休み時間が終わるまで雑談し午後の授業が始まり放課後になると俺はいち早く求眠堂へ急いだ。求眠堂の扉を勢いよく開くと夢食さんはこちらを呆れたように見ながら
「お前は、静かに開けることが出来ないのか」
「あ、すみません」
「客が居る時もあるんだから次から気を付けろよ~」
「はい」
はやる気持ちが抑えられず勢い良く開けてしまった事に反省しつつゆっくり扉を閉め、俺は同意書を渡すとそれを見て顔を顰める夢食さん。
「何か不備ありましたか?」
「いや・・・・お前の父親の名前なんだが」
「父さんの名前が何か?」
「もしかしてだが、妖怪研究家の朧月静雄か?」
「そうですけど・・・・父さんを知ってるんですか?」
「知ってるも何も、俺達の業界だと超有名人だよ・・・・」
夢食さんの業界って・・・・宿泊業?
「え、父さん眠りに関しても何かやってるんですか?」
「ちげーよ、俺達妖怪の中でだよ!」
「あぁそっちか!」
「そっちしかねーだろ」
呆れた顔をする夢食さん
「お前朧月静雄の息子なのに獏を知らなかったのか・・・・」
「いや~父さんが妖怪を調べてるって事は知ってますけど具体的に何してるかは知らないんですよ」
「お前の父親は、妖怪の中では一番妖怪を見つけ出す可能性がある人間って有名なんだよ」
「えっそうなんですか?」
「妖怪の文献や地域に根付いた伝承から、妖怪の住処や特性を見つけ出し俺達の住処のすぐそこまで辿り着けるほどの考察力に土地に導かれるように目的地まで辿り着く天から愛された運を兼ね備えた人間。それがお前の父親だ」
父さんの評判を妖怪である夢食さんから聞くってなんか不思議な感じだけど聞く感じ本当に凄い人だったんだな~
過剰だと思えるほど、褒め称えられる父親に少し恥ずかしさ覚えていると
「その息子に正体がバレるとかマジで最悪だ・・・・絶対話すなよ!」
項垂れながら言う夢食さんがなんか面白くて少し笑ってしまいながら
「言いませんよ、だけど父さんがこの状況を知ったら喜びそうだなって」
「面倒は勘弁だ」
父さんを喜ばせたいという気持ちと俺の恩人である夢食さんを尊重したいと思い、
凄く嫌そうな顔をするので分かったと頷き
「父さんの事を知ってるってことは、兄貴も知ってるんですか?」
「あぁ父親の傍で写真を撮ってる奴だろ?あの写真に何度映りそうになったかって、知り合いの妖怪達が言ってたぜ」
「妖怪って写真に写るんですか?」
「妖怪を幽霊か何かだと思ってないか?妖怪だって少し特殊な能力を持っているが肉体を持った生き物だ。まぁ種族によって例外はあるけどな。鬼や山姥なんかはカメラに映るぞ」
「そうなんですか~」
「まぁ、そこらへんは後々教えてやるよ。まずは、アルバイトの基本からだ」
あ、そうだ。雑談に夢中になってしまったが今日俺はここに働きに来たんだった。
「まず、学生服のままじゃ働かせられねーからこの店に来たら奥で着物に着替えてもらう」
「え!着物なんて着れないですよ!」
「最初は俺が着せて教えてやるから覚えろ。別にこの店は畏まった店じゃねーから着流しで良いしな。正装が必要なときはその都度教えてやる。んじゃ付いてこい」
いきなり着物を着る事になった俺は不安を抱えながら夢食さんにあれよあれよと着物を着せさて貰い鏡で姿を見せてもらうと
「おう、中々似合ってるんじゃねーか」
「うぇええ 着物なんて始めて着ましたよ。意外と動きづらくないんですね」
「慣れれば快適だぞ~夏は甚平で良いしな」
「夢食さんは昔から着物着てたんですか?」
「おう、実家だと着る機会も多かったからな。それに、店の雰囲気のためにも着物が良いんだよ」
着物を着る機会が多い実家ってどんな実家?もしかして、夢食さんって実は由緒正しい家の出とか?なんかそういう家を表す言葉があった気がするけど・・・・思い出せね。
「んじゃ、店に戻るぞ」
「あ、はーい」
店に戻って来た夢食さんは棚からバインダーを取り出すと
「あ、忘れたけど店に来たら着替える前にこれに時間書いておいてくれ。今日は今から10分前に書いておいてくれ。退勤する時も忘れずにな」
「分かりました」
俺は夢食さんに教えてもらいながら出勤簿に記入するとこの店の業務について教えてもらった。
「んじゃ次は業務の説明だな。客が来たとしても基本は俺が接客するから朧月の仕事はこの店の掃除と整理整頓だ。そして、客が使った部屋の清掃だな。アロマに関しては後々教えていくから今はまだしなくて良い」
「分かりました!」
俺は懐にしまっておいた手帳にメモしていく。
「客が来た時お前も相談内容を聞くことになると思うが、客のプライバシーを守る事、家族や友達には話さず、SNSなんて以ての外だ」
「勿論です!」
「もし、それが発覚したら問答無用で解雇するからな」
「命が掛かってるんですから絶対しません!」
自分が長生きするためには夢食さんに夢への対処方法を教えて貰わないといけないのだ。自分からその機会を無くすなんて事絶対にしない。
「よし、良いだろう。それじゃあ、そこの棚に掃除用具が入れてあるから早速掃除して貰おうか」
「分かりました」
俺は言われた通り棚から掃除を取り出し早速掃除に取り掛かった。
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