説明求む!

 学校に何とか間に合った俺は、昨日の事があった後では授業に集中できるはずがなく淡々と黒板に書かれていく説明を左から右へと流しながら今日の放課後に会いに行くつもりの店主さんの事ばかり考えていた。


 獏か~ということは店主さんは妖怪って事になるよな。でも、夢以外だと人間の姿してるし・・・・実はあの動物の姿が本当の姿で人間姿は仮の姿だったり?もしくは、夢の中でしかあの姿になれないのかもしれない


「朧月君」


 獏が居るって事は他の妖怪も居たりするのかな?くそ~こんな事だったら父さんから妖怪のこと色々聞いておくんだった!妖怪が居るんだったら宇宙人も居たりするんじゃないか?えっと・・・・頭がのっぽで体は灰色のなんだっけ・・・・


「朧月君」

「え!?」

「指名されてるよ」

「あ、えっと・・・・」

「ここだよ」


 思わず立ってしまったが一体どこを聞かれているのか分からず、口ごもっていると横から救いの手が。先生に注意はされたけど、問題なく答えられた俺は席に座ると答えを見せてくれた隣に向かって小さく


「ありがとう、助かったよ」

「大丈夫?また気持ち悪いとか?」

「いや、ただ考え事してただけ。ありがとう」

「そうなの?だったら良いけど無理しないでね」


 そう言って微笑む彼女はこのクラスの保健委員である霧浜歩美きりはま あゆみさんだ。腰まである艶やかな長い黒髪に、大和撫子という言葉がぴったりと合う綺麗な顔立ちの彼女は一見すると儚げに見えるが確かな強さを持った女性で、俺が体調を崩していた時には気付いて有無を言わせず保健室に連れて行くほどアグレッシブだ。注意をされてしまった俺は、また指名させると不味いと思い考え事を止めて授業に集中するのだった。授業が終わった休み時間机でだらけていると


「朧月君、本当に大丈夫?また睡眠不足だったりする?」


 心配そうに霧浜さんが訊く。俺は姿勢を正し笑いながら


「本当に大丈夫!実は昨日悩みが解決して今ではグッスリ寝られるようになったんだ」

「そうなの?それは良かったね。睡眠不足って馬鹿にならないから解決したなら良かったよ」

「おう、心配してくれてありがとう」


 そう言って安心したように微笑む霧浜さんは本当に優しいと思う。前に俺が睡眠不足で気持ち悪くて倒れそうな時気付いてくれて保健室に連れて行ってくれたり怪我や体調を崩している人にはすぐに気づく。そんな彼女は早くもクラスの中の人気者。未だに友達の出来ていない俺とは大違いだ。


 いや、今までは体調が悪くて友達を作るどころじゃなかったから仕方が無いんだ。うん、うん、そう、これから頑張って友達を作っていけばいいしな。そんな決意を胸に放課後まで過ごした俺は大急ぎで求眠堂に向かった。昨日来たばかりの不思議な店は変わらず、人目から隠れているように立っている建物の前に辿り着くと、その人けの無さに


 このお店って儲かってるのか?


 という大変失礼な事を思いながら、店の名前に置いてある変な生き物の置物をじっくりと見る。


 これって昨日見た店主さんの姿と似てるよな~・・・・


 昨日見た姿よりだいぶリアルで迫力があるけど造形は似ている獏だと思われる置物をしゃがみながら眺めていると店の戸が開き


「なに店の前でしゃがんでるんだ?」

「あ、店主さんこんにちは!しっかり店があって良かったです!」

「流石に潰れるような経営はして無いぞ」

「いや、そういう事じゃなくてほら昔話にあるでしょ?昨日会ったはずの場所がいきなり消えてるみたいな」

「あ~なるほどな」


 昔話だけじゃなくて恐怖体験談とかでもありがちだよな。昨日在ったはずの家が~って。店主さんが妖怪ならもしかしたら店が無くなってるかもってドキドキしてたんだけど、店主さんは呆れた顔をしながら


「そんなことしたら儲からないだろ。それにここの立地結構気に入ってるんだ移動する訳ないだろ」

「気に入ってるって・・・・」

「おい、仮にも店主の前だぞ」

「いや、すんません」

「はぁ・・・・店の前でそんな事されても困るからとにかく中に入れ」

「お邪魔します」


 俺は言われた通り店の中に入ると昨日とは違う匂いが部屋の中に漂っていることに気付き


「あれ今日は違う匂いがしますね」

「あぁその日の気分で変えてるんだ」

「そうなんですか、今日は花の匂いですか?」

「お、良く気付いたな」


 部屋の中には、フルーツのような花のような甘い匂いが漂い少し俺には甘すぎるかなと思うけれど嫌な匂いではない。


「今焚いているのはカモミールって花でな、古代は大地のリンゴって呼ばれていたほどリンゴの匂いに近い花なんだ」

「へ~だからフルーツの匂いがするんですね」

「そ、じゃあ昨日の事話してやるからこっちこい」


 店主さんは俺を昨日店主さんが座っていた場所まで案内すると座布団を取り出し、靴を脱いで店主と向かい合う形で座ると胡坐をかいて座りながら


「なんか飲むか?」

「いや、大丈夫です」

「そうか、んじゃ何処から話したもんかね」


 店主さんはダルそうに頭を掻きながら何をから始めようか迷っているようだったので、俺は昨日からずっと考えていた疑問をぶつける事にした。


「あの・・・・」

「なんだ?」

「店主さんって妖怪なんですか!」

「いきなりぶっこんできたな」


 呆れた顔をしながら、店主さんは


「なんでそう思ったんだ?妖怪なんて非現実的なものなのにな」

「だって、店主さんは夢の中に入って来て色々してたしなんか変な姿になったりしてたからさ。それって普通の人間じゃ出来ない事でしょ?それに昨日父さんに夢に出てくる動物について聞いたんだ。夢に出てくる動物と言えば獏だって」

「なるほどな~」

「教えてくれるって言っただろ?答えてくれ」


 そう言うと、店主さんは目を瞑り唸ると目を開き


「まず一つ、ここでの話は口外するな。それを約束してくれるなら全てを話してやる」

「え~だって妖怪でしょ!!世間に話せば大発見になるじゃん?!」

「あのな~隠れ潜んでる奴らを暴こうなんて酷い事しようとするなよ」

「あ~・・・・」

「もしそんな事したら一生悪夢に悩ませてやるからな」


 そう言って店主さんはぞっとする程怖い表情を浮かべたので、俺はピシッと背筋を伸ばすと敬礼をし


「畏まりました!!!」

「よし、それじゃあ話してやるか」


 ビビった俺の事を見て頷くと店主さんは色々な事を語り始めてくれた。


「それじゃあ、さっきの質問から答えてやるか。俺が妖怪かというう質問だが単刀直入に言うと妖怪であって妖怪じゃない」

「は?なんですかそれ、妖怪であって妖怪じゃない?」

「純粋な妖怪では無いってことさ。俺は妖怪の先祖返りで人間と妖怪が混じった存在なんだ」

「アニメとかで言う半妖ってやつですか?」

「あ~正確には違うんだがそんな感じだと思っていい」

「あの、じゃあ現実世界でもあの姿になれるんですか?」

「あの姿?あぁあれか」


 そう言うと店主さんは煙のように姿がぼやけるとそこに現れる夢で見た不思議な生き物・・・・より少し表にあったゴツイ獏の姿があった。


「・・・・なんかゴツくないですか?」

「夢の中では脅かさないように姿を少し変えてるんだよ。本来の姿はこっちだ」


 床にだらけながら店主さんが答えてくれたが、俺は妖怪が本当に居たという感動と何だこれという好奇心で心が躍っていた。


「なんだそんな嬉しそうな顔して」

「いや、なんかアニメの世界みたいだなって!」

「念押ししておくが、誰にも話すなよ」

「分かってますって!」

「ほんとか~?」

「信じて下さい!」


はぁとため息を付くと


「まぁもし話してもどうにかできるから良いか・・・・」

「え?なんか言いました?」

「いや、何でもない。もういいだろ?」


 そう言うと店主さんはまた煙のように姿がぼやけると、人の姿に変わりダルそうに座っていた。


「自由自在なんですね」

「まぁな」

「んで、他に質問は?」

「妖怪って他にもいるんですか?」

「ノーコメント」

「ええええ、何でも答えるって言ったじゃないですか!」

「俺の事は話してやるけど、他の奴の事は話す訳ないだろ」

「うぐぐ」

「他人の情報をペラペラ話すほど俺は口が軽くないし、お前が他の人間に話さないという保証も無いだろ?」

「あ~まぁそっすよね」」


 他の妖怪の事を聞けないのは残念だが話してくれないのは当たり前か。俺だって赤の他人に友人のことを何でも話せって言われたら嫌だし断ると思う。今は信用が無いけど、通い詰めてれば信用して貰えるかもしれないし今は聞けることを聞こう。


「それじゃあ、店主さんの名前教えてください」

「あれ、まだ名乗って無かったか。俺は夢食秋ゆめくい しゅうこの求眠堂の主だ」

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