目覚めは鮮明に
俺の言葉に笑顔を崩した店主さん。その隙を逃さないよう畳み込むように、俺は質問を投げかけていく。
「悪夢の残滓?って言うのを食べてましたけど、お腹痛くならないんですか?というか、悪夢を食べるって一体・・・・もしかしてあの姿と関係あるんですか?あ、それと今日やったことって店主さんが居なくても出来るんですか?」
「なんで、そんな事まで覚えてるんだ・・・・?可笑しいだろ、夢はすぐに忘れるはずだ」
「俺、夢の内容をずっと覚えていられるんで!」
俺の勢いに押され後ずさる店主さん。その顔には困惑と疑問の表情が浮かんでいる。確かに店主さんの言う通り普通夢というのは、起きてすぐは覚えているがすぐに記憶から消え思い出せなくなる。だが、俺の小さい頃からの特技というか特異体質というかで、夢の内容を何時までも覚えておくことが出来るのだ。俺の言葉を聞いた店主さんは嫌そうに顔を顰めると手に顔を当て仰ぎながら
「夢人かよ・・・・」
嫌そうな声を漏らした。夢人?何のことだろう、それよりも色々質問があるから答えてもらわなくては!
「俺、覚えてますからね!質問に答えて下さい!」
「あ~おっと、もうこんな時間だ。子供は帰らないとね!寝間着は脱いで部屋に置いておいて、着替えたら最初の入り口に来てね」
そう言って、店主さんは俺から離れると逃げるように入口へと歩いて行く。追いかけようとしたが、自分の格好を思い出し俺は急いで部屋の中から荷物を取り出し着替え入り口に行くと店主さんはにこやかな顔で扉を開けて待っていて
「お客様の悪夢を解決出来て大変良かったです。もう、悪夢で悩まされこの店に訪れる事が無いように願います」
「ちょ!なんか帰らせようとしてませんか!質問に何一つ答えて貰ってないんですけど!」
あからさまに俺を帰そうとしている店主さんに俺は近づき問い詰める。ていうか、この店に訪れ事が無いように願いますって・・・・遠回しにもう来るなって言ってるだろ!食い掛る俺を店主さんは強引に店の外に出すと
「はい、本日は営業終了です。ありがとうございました」
扉を閉めようとするので俺は力いっぱいそれを防ぎ
「答えろぉおおお」
「お客様困りますぅううう」
俺と店主さんの攻防は五分ぐらい続いたが、現役高校生である俺の体力に店主さんが勝てる訳も無く俺の勝利で終わった。店主さんは息を大きく吐くと、
「あ~もう分かった」
「よっしゃ!じゃあ!」
「だが!」
俺はようやく折れてくれた店主さんに色々な疑問をぶつけようと思ったが、質問する前に店主さんが俺の顔の前に手を出し止めてきた。
「説明すると長くなるから、また来た時に説明しよう。今日は本当に遅い親御さんも心配するだろうし、なにより高校生がこんな夜遅くまで出歩くのは良くない。だから、早く帰りなさい」
そう言った店主さんは、会った時や夢の中で見た顔とは違い大人の顔をしていた。諭された俺は、残念に思いながらも母さんや父さん、兄貴を心配させるのは不味いと思ったのでしぶしぶそれに従う事にした。
「絶対ですからね!明日来ますから!」
「明日かよ!」
「それでは!」
俺はすっかり空は暗くなってしまったが、電灯やビルの光で明るい町中を電車に乗るために駅まで走り何とか乗れた俺は、電車に揺られ通り過ぎていく煌びやかな町並みを眺め今日の出来事を思い返していく。
噂で聞いたから行ってみたけど、本当に不思議な場所だったな・・・・店の雰囲気もだけど一番の謎は店主さんだよな。人の夢に入るなんて普通出来るはずないし、姿を変えるなんて夢だとしても変な気がする。今まで見てきた夢の中で虫になったりとか動物になったりした夢はあったけど、それとはなんか違う気がするんだよな~
「次は、月夜、月夜。お出口は左側です、お降りの際はわすれものをなされないようお気を付けください」
考えていると、あっという間に降りる駅に着いてしまい電車から降りると時刻は既に22時をまわっていた。
こんな時間まで一人で外に居るなんて初めてだな。
中学の部活で夜が遅くなってしまった事はあったが、ここまで遅くなることは無かった。高校に入ってからは、睡眠不足に悩まされて友達と遊んだりバイトをしようという気持ちにもなれなかったから、さっさと家に帰って布団に潜り込んでいた。夜遅くになっても、建物の光に照らされ明るい道を少し急ぎ足で歩きながらも、何時もとは違く見える見慣れた町並みを楽しみながら帰路を進んで行く。
駅から歩いて10分、多くの住宅が並ぶ中の一つが俺の家だ。外灯は点きリビングがある部屋からは光が見える。
まだ父さんは起きてるっぽいな・・・・そうだ!
俺は思い出したように、玄関まで走り扉を開け靴を脱ぎ父が居るだろうリビングまで駆け込むと勢いよく開かれた扉に驚きこっちを見ている母さんと父さんと兄貴が居た。
「おう、おかえり」
「そんなに急いでどうしたのよ、扉は優しく開けなさい」
「お~おかえり、遅かったな」
父さんは椅子に座りコーヒを飲んでいて、母さんと兄貴はソファーに座りテレビを見ていた。俺は、父さんに駆け寄り
「ただいま!ねぇ父さんって変な生き物に詳しいよね?」
「何だいきなり、変な生き物じゃなくて妖怪な」
そう、父さんは妖怪に着いての本を出し業界ではそこそこ有名な人らしい。そんな父さんなら、店主さんがなった不思議な生物について知ってるんじゃないかと思ったのだ。
「今まで興味示さなかったのにどうしたんだ?」
「あのさ、夢に現れる白黒の鼻の長い生き物って知ってる?」
「夢に現れる白黒の生き物?・・・・それは」
「獏だろ」
父さんが答える前に兄貴がソファーに座りながら俺達の方を見ながら言った。
「バク?」
「見吾が言う通り、恐らくそれは獏だろうな。漢字はこうやって書くんだ」
父さんは、テーブルに置いてあったメモ帳を取り漢字を書いて見せてくれた。へ~こうやって書くんだ。
「獏って有名なの?てか、何で兄貴が知ってるの?」
「そりゃ夢に出てくる妖怪と言えば獏だろ」
「まぁ夢に出てくる妖怪は色々いるが鼻の長い生き物といえば獏だな。獏の色は書物によって違ったりするんだが、妖怪では無い普通の動物で白と黒のバクが居るからそのイメージが強いな」
「へ~じゃあさ、その獏って何をする妖怪なの?」
「獏は中国から日本に伝わってきた妖怪で、悪夢を食べてくれる妖怪だと一般的には言われてるな。昔から縁起の良い妖怪だとして、絵や文字を枕元に置くと悪い夢を見ることは無いろ言われてるな」
「じゃあ良い妖怪なんだ!」
「一般的には善良なものとされてるいるな」
話を聞いた限りだと店主さんは獏の可能性が高い。妖怪って本当に居たんだ!今日あった事を父さんに話そうとしたら、母さんが
「妖怪の話も良いけど、早くお風呂に入っちゃいなさい。明日も学校でしょ?」
「・・・・は~い」
もっといろいろ話したかったけど母さんの言う通り、明日の準備をしなくては。店主さんの言う通りなら、今日はぐっすり眠れるはず。俺が風呂に入って出てきたら既に父さんは寝室に行ってしまい残ってたのは兄貴だけだった。
「覚なんでいきなり獏の事なんて聞いたんだ?お前妖怪に興味なかっただろ?」
「そうだけど・・・・今日から興味出たの!」
「ふ~ん、まぁお前悪夢見るって言ってたもんな。スマホのロック画面獏にしたら本当に悪夢食ってくれるかもな」
「もう食べて貰ったから大丈夫!」
「は?」
そう言って部屋に戻る俺を怪訝そうな顔で見送る兄貴。もう悪夢は食って貰ったから平気なんだぜ!俺は布団にもぐり店主さんの言葉を思い出しながら眠り望む夢を見る。
次の日の朝、俺はまた携帯のアラームによって起こされ、リビングに行くと既に父さんと母さんが朝食を摂っていた。
「あら、おはよう。今日は目覚めが良いみたいね」
「睡眠不足解消されて絶好調なんだよね!」
「あら、そうなの良かったわね。顔洗ってきなさい」
「は~い」
俺は言われた通り洗面所で顔を洗い、鏡を見ると前までくたびれ深い隈が出来ていた顔から隈が消え去り元気を取り戻していた。あんなに酷かったのに、こんなにすぐ治るなんて睡眠って本当に大事なんだな・・・・リビングに戻った俺は朝食を摂りながら父さんに昨日の続きを聞いてみた。
「父さん、妖怪って本当に居ると思う?」
「今までそんなこと聞いたこと無かったのに昨日からどうしたんだ?」
「色々あったんだよ」
「そうだな~父さんは妖怪は本当に居ると思ってる。妖怪と言っても俺達が妖怪と称しているだけで、全く別の生態系を築いた生命体かもしれないし、人が何かしらの変異を起こした特殊な人間かもしれない。妖怪だけに限らず、そういった人間の普通とは違った特徴や能力を持った生き物は存在すると思うんだ」
「あらあら、朝から面白い話をしてるわね」
「母さんはどう思うの?」
「居るんじゃないかしら?だってこの世の中分からないことだらけでしょ?」
「へ~」
「ほら、そんなゆっくりしてて良いの?」
「あ、やべ」
時計を見るともう家を出なくてはならない時間が迫っていた。俺は大慌てで朝食を詰め込み歯を磨き部屋に戻って着替え急ぎ足で
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
慌てて家を出て行く息子を見て二人は
「覚、元気になったみたいで良かったわ」
「あぁここの所寝れなかったみたいだからな~もしかしたら獏に会ったのかもな」
「あら、それなら獏さんにお礼を言っておかないとね」
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