第65話「天下の大悪人、異民族への使者になる(11)」
「がはぁっ!? があああああぁっ!!」
奴の身体はそのまま、床へと
「倒した……のか?」
俺は介州雀の腕から、『
奴の傷口から血が噴き出す。
奴は床に腕を押しつけながら、無事な方の腕で胸を押さえてる。
苦しんでるのは、たぶん、腕の痛みのせいだけじゃない。
『
『
奴はそれを使って、
俺の『天元の気』は、その「毒の気」を
介州雀はその『毒の気』の
そこに薬となる『天元の気』を注ぎ込んだもんだから──
「こいつの身体の中で……『毒の気』と『天元の気』が戦っているのだよ」
気づくと、すぐ側に秋先生がいた。
「『四凶の技・窮奇』とは、使用者の体内に『毒の気』を生み出すものなのだろう。使用者は他人に『毒の気』を注ぎ込んだり、他人の『気』を喰らったりできる。おさないころの
秋先生は冷たい目で、介州雀を見下ろしている。
「『毒の気』に慣れたこいつにとって『天元の気』は有害なのだろう。突然、大量の解毒薬を投入されたようなものだからな。しかも天芳の『天元の気』は濃密で強い。今はこいつの身体全体に、
そう言って、秋先生は介州雀に近づく。
とどめを刺すのかと思ったけど……違った。
秋先生は
「まずは上腕を
秋先生は包帯に結び目を作って、それで介州雀の腕を縛っていく。
結び目でツボを
それによって『毒の気』の流れを止めて、気を食らう力を封じることができるそうだ。
「
つぶやきながら、秋先生は手早く
「こいつの治療をするのは不本意だが……死なせるわけにもいかない。本当に嫌な作業だ。長い間、
「先生。聞いてもいいですか?」
声をあげたのは、
「秋先生はこいつを倒すために、ずっと旅をしてきたんですよね? なのに、助けるのですか?」
「倒すのは、弟子の君たちがやってくれたからね」
秋先生は
「それに、私は
「……秋先生」
「この男が
先生は、手早く介州雀の治療を終えた。
血止めをして、ついでに手足を拘束して動けないようにしてる。
だから介州雀は、うめき声をあげながら苦しんでる。
そんな介州雀を、秋先生はまた、静かに見下ろしていた。
でも、すぐに興味を失ったように、肩をすくめた。
それから秋先生は、俺たちの方を見て、
「ありがとう。
立ち上がろうとした秋先生の身体が、ふらつく。
俺と
「……弟子に助けられてばかりだよ。まったく、しまらないなぁ」
秋先生は照れくさそうな顔で、言った。
「本当はきちんと、足止めの役目を果たして、集団でこいつを倒すつもりだったんだけどね」
「秋先生は十分、足止めしてくれました」
「こいつらと戦えたのは、秋先生に教わった
「そっか。うん。今は弟子の優しさに甘えよう」
秋先生は、笑った。
「あのね、
「ぼくに、ですか?」
「私がこうしていられるのは、君が
静かなため息が、聞こえた。
「運良くあの男……介州雀を見つけて、戦いを挑んだとしても……私は敗れていただろう。運良く、勝てたとしたら、今度は生きる目的を失って……ただ、さまようだけの人生になっていたかもしれない」
「……秋先生」
「でも、今は違う。私は
「ぼくの力じゃないです。ぼくが秋先生と出会えたのは、雷光師匠が『内力の師匠を探せ』と言ってくれたおかげなんですから」
「そうかな?」
「そうですよ。それにぼくも、秋先生と出会えてよかったと思ってますから」
秋先生のおかげで、『天元の気』の使い方がわかった。
『
介州雀の『
秋先生と出会わなければ、
というか、秋先生がいなかったら、『
秋先生がいなかったら……たぶん、『
その運命を変えられたのは、秋先生のおかげなんだ。
「そう言ってくれるのはうれしいけどね。天芳、君はもっと偉そうにしてもいいと思うよ。なぁ、化央くん」
「はい。天芳はもっと、まわりの人間の気持ちに
「まぁ、
「ですね」
「そんな天芳くんと化央くんには、いいものを見せてあげよう」
秋先生は
血の跡がついてる。これは──
「あの男……介州雀を
──やっぱり。
「奴がなにを企んでいたのか、どうやって『四凶の技・
「「はい。先生」」
俺と小凰がうなずく。
その直後、大勢の人たちの足音が近づいてきた。
警戒はしなかった。
「秋どの! 天芳どの化央どの! ご無事ですか!!」
「敵は!? 我が部族の敵は──」
飛び込んできた炭芝さんとガク=キリュウの動きが止まる。
彼らは倒れている壬境族の兵士たちと、介州雀を見た。
「……『四凶の技』の使い手に、勝ったのですか!?」
ガク=キリュウが目を見開く。
炭芝さんも藍河国の兵士たちも驚いた顔だ。
『戊紅族』の兵士たちなんか、がたがたと震えはじめてる。
びっくりするのも無理はない。
介州雀は壬境族と組んで『戊紅族』の集落を襲い、砦を奪った。
しかも、介州雀は強い。『毒の気』を使って、壬境族の兵士たちを強化していた。
そんな人間が倒されて、もだえ苦しんでるんだ。
そりゃおどろくよな。
俺だって、勝てたのが信じられないくらいなんだから。
「……
ガク=キリュウは、静かに、床に
隣にいる族長も、『戊紅族』の兵士たちも、それにならう。
「一族を救ってくださったことに感謝いたします。このご恩は、われらの身命を
「「「藍河国の方々に、全身全霊の感謝を!!」」」
ガク=キリュウと『戊紅族』の人々は、一斉に声をあげた。
「我ら『戊紅族』は藍河国に
「「「戊紅族はなにがあっても、
戊紅族の人たちは興奮した表情で、そんなことを
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いつも「天下の大悪人」をお読みいただきまして、ありがとうございます。
次回、第66話は、明日か明後日くらいに更新する予定です。
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