第23話「天下の大悪人と兄弟子、試験を受ける(1)」
それからも俺は
『
雷光師匠との追いかけっこも、二回に一度は師匠の影に触れられるようになった。一度だけ、師匠の衣に触れたこともある。
師兄は『四神歩法』は苦手なようで、まだ師匠の影にも触れられていない。
けれど、剣術の方はかなり上達してる。
細い枝くらいなら、木剣で
師兄と試合をしても、俺はまったく敵わないくらいだ。まぁ……それは元からだけど。
『
毎日、修行のはじめに師兄と俺とで1回ずつ。朝と夕に
俺の『気の力』──
だから俺は、今の自分がどれくらいの内力を持っているのかわからない。
まぁ、ゲームの『
『獣身導引』をやると健康になるのなら、母上にも
師匠によると、健康法としては10代前半の若者にしか効果がないそうだ。
代わりに、
『
さすがは
燎原君を敵に回さなくてよかった。本当にそう思う。
そんな感じで修行を続けていた、ある日のこと──
「試験をしたいのだが、構わないかな?」
──師匠が、そんなことを言い出したのだった。
「試験、ですか? ぼくと師兄に?」
「そうだよ
雷光師匠はうなずいて、
「間もなく燎原君から君たちに『お役目』が下る。ちょっとしたお使いだ。私が行ければいいのだけれど……別の仕事があってね。私はしばらくの間、この
「師匠……どこかに行ってしまうのですか?」
「たいした仕事ではないけれどね」
「ですが、ぼくはまだ教えを受けたばかりです。できれば師匠のもとで、引き続き学びたいのですが……」
修行の成果は出てきている。
身は軽くなってきているし、動きも素早くなってきてる。
だけど、まだまだだ。
俺が『四神歩法』を使っても、師匠にはすぐに追いつかれてしまう。
破滅エンドを避けるためには『絶対に誰にも捕まらない』レベルの技が必要だ。
だからもっと、師匠の側で教えを受けたいんだけど……。
「……でも、お仕事なら、仕方ないですよね」
「なんでそんな世界の終わりみたいな顔してるんだよ。天芳」
師匠は苦笑いしてから、師兄の方を見た。
「
「あります。ですが、ひとつうかがってもいいですか?」
「いいよ。なにかな?」
「
「もちろんだ。お役目を果たせば君たちの
「わかりました。師匠!」
師兄は
師兄は試験を受けることに、まったく迷いはないらしい。
「悪いけど、全力でやらせてもらうよ。天芳」
師兄は真面目な表情で、俺の肩を叩いた。
「僕は『お役目』を果たした後で、君に伝えたいことがあるんだ。そのためにも負けられない。絶対にね」
試験の内容は
朝、
日が沈む前に、北にある
そこで待っている雷光師匠の前で、俺と師兄が手合わせする。
『
『
その結果を見定めて、試験の勝者を決めるということだった。
師兄が町を出ることについては、
なので、問題はないそうだ。
そんなわけで、俺と師兄は試験のための準備をはじめたのだった。
「
試験の日の朝。北臨の北門の前。
薄明るくなってきた空の下で、雷光師匠は言った。
「『四神歩法』を使えば、夕方までにはたどりつけるだろう。近道をしても構わないよ。
「「はい。師匠!!」」
俺と師兄は並んで、扉が開くのを待っている。
試験の準備は整ってる。
栄養補給のための干し飯と、水筒もある。
それと、念のために俺と師兄は剣を背負っている。
短い旅だけれど、野犬や盗賊と出会うこともある。危機は自分で切り抜けなければいけない。そのための武器だ。
まぁ、街道を通る限り、それほど危なくはないんだけど。
「西の空が
空を見上げていた雷光師匠は、俺と師兄を見て、
「試験の配点は、穂楼の町までの時間を競う『歩法』の評価が半分、試合による『剣術』の評価が半分だ。先を急いで『歩法』の点数を稼ぐのもよし、体力を温存して『剣術』に
にっこり笑って俺を見る雷光師匠。
……まずいな。
師匠は、俺が師兄に勝負を
師兄のお母さんは、師兄が燎原君の『お役目』を果たすのを期待してる。
試験はそれを果たす能力があるかを試すものだ。
たぶん、勝った方が『お役目』を受けることになるだろう。
俺としては、師兄に勝負を
「……天芳。いや、僕の
化央師兄は真剣な表情で、俺を見た。
「僕はすべてを
やがて、門が開きはじめる。
堀にかかる
門の隙間から、遠くの山々が見える。
藍河国の北方は険しい山地だ。その先には草原があり、騎馬を得意とする異民族が住んでいる。その民族の侵攻を防いでいるのが、北方の砦だ。
もちろん、今回はそこまでは行かないんだけど。
「試験の前に君たちに助言しよう。
ふと、雷光師匠が言った。
「『四神剣術』『四神歩法』は型をおぼえただけじゃ不十分だ。
門が完全に開き、風が吹き込んでくる。
跳ね橋が地面に触れて、大きな音を立てる。
開門を待っていた人々が動き出す。
そして、雷光師匠が手を挙げたのを合図に、俺と師兄は走り出したのだった。
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次回、第24話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。
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