幕間――――過ぎ去れし日々Ⅱ
第1話
姉たちに比べても年の離れた
こうした状況がより顕著になったのは、
「ほぉら、
「もう、今時ぬいぐるみなんて古いよ。何せ今はスマホの時代なんだから。ほら、
「ええー、女の子ならスマホなんかよりも当然ドレスよね? 見て、ここの金の刺繡綺麗でしょ? これ、本物の金よ」
「私は
「……」
集まってきた分家たちが、ご機嫌を取ろうと次々に度の過ぎたプレゼントを披露していく。しかし彼らは
この二つのグループは表向きでは仲間意識を保っているかのように見せかけていたが、裏では互いをいがみ合うような関係だ。イジメといった深刻な問題はなかったものの、精鋭組は“楽して土足でプロの現場に踏み込んだ素人の集まり”と軽蔑し、推薦組は精鋭組のことを“自意識過剰な集まり”と見下す。
そして、この日は“偶然”にも精鋭組の使用人たちが“研修旅行”で
この異常事態を察知して急いで帰還した、ただ一人を除いて。
「ご無事でしたか、お嬢様」
「……
「遅くなり誠に申し訳ございません、お嬢様。貴女様の
わざと分家たちの間を割って幼き主人に接近し、綺麗なお辞儀をする。無遠慮な舌打ちに
「自称
当時の
それでも、彼女は『
この時から既に分家たちの間では『お飾りに魅入られた憐れなメイド』として定着したが、本人は気にも留めなかった。
「ハッ、せっかくのご厚意で恐縮ではございますが、すっぽかしてきました」
「たかが使用人の分際で勝手な真似は許さんぞ! 何様のつもりだ。一体、いくら金を積んでやったと思ったんだ! 我々の――」
「もう止めてやれ。まだお飾りの前だぞ」
一人の分家に止められ、ハッとする男。人前でも
主人の代わりに、
「このクソメイド、覚えとけよ!」
「はいはい、二度とこの屋敷に踏み入れないよう、願うばかりでございます」
重厚な正面玄関のドアを閉めて、そこに背中を預けて一息入れる
本来であれば、使用人がこのようなことをしても決して許されないはずだが、彼女は使用人であっても、本家に仕える精鋭組の使用人である。そのため、例え分家の連中でも彼女の言い分には逆らえない。
けれど100人ものの使用人の内、推薦組が7割、精鋭組が僅か3割。
そしてその精鋭組の中でも果敢に分家の連中に立ち向かうのは、残念ながらたった
――一刻も早くこちら側の人間を確保しなければ、お嬢様おろか、ひいては本家の存続も危ない。
扉から背中を離したと同時に、
それから
しかし、精鋭組の使用人は自分の職に並ならぬプライドを持っている故に頭も固く、当初
その間に申請を済ませて正式に
先代当主・
本来であれば、一使用人の出る幕ではないが、主がなき今、誰かが引き受かなきゃいけないことだ。
そのため、
けれど、いずれも『次期当主である
朝は
そんな生活が続くうちに、あっという間に二年が経ち、
その日は、一日中雨が降っていた。
本来であれば、
――もしかしたらお嬢様に何かあったのかもしれない。
漠然とした不安を抱えて、
この時点で既に嫌な予感しかしないが、メイドのトップに立つたる者、決して油断してはならない。彼女は心中で諫めると、努めて冷静な口調で告げた。
「失礼します」
身体の中で渦巻いている胸騒ぎが大きくなったと同時に、ドアノブを握る。
自身を落ち着かせるために深呼吸してから、ゆっくりとドアを開けると、そこに広がる光景に驚愕し、思わず息を呑んだ。
「――――ッ」
絨毯の上に気絶して倒れている
見たこともない模様が彼女の身体を蝕んでいるような光景に理解が追い付かないまま、気絶した主人の元へと駆け寄った。
「お嬢様!
彼女の身に一体何かあったのか。そんな質問に支配されたまま、必死に救援を求める
もし、もっと早く気付いていれば。もし、もっとお嬢様のことを気にかけていれば。もし、傍にいれば――。
そんな後悔ばかりが
先代当主・
立て続けに二つの事件に見舞われた
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