悪の組織

とあるドイツの古城の中の、豪華に装飾された部屋、その奥に高級なビロードの椅子に、白いスーツに赤い薔薇を胸に刺し、片手にワイングラスを持った美形の男が足を組み座っていた。男は確かに美形なはずだが、しかしどことなく残念で3枚目な雰囲気を漂わせていた。


その男の部屋に、妖艶な女が入ってくる。女は背中が大きく開いた、赤い、いや、深紅のドレスを着ていた。


女は男の前に出ると、片膝をつき、胸に左手を当てて深く頭を下げた。女は男に挨拶の言葉を述べた。


「我が君、ご壮健そうで何よりにございます」


「やあ、イザベラ、君も元気そうだね、今日はどうしたのかな?」


「ご報告があってまかりこしました。我が『目』によれば、『博士』が『王の卵』を発見したと」


「おお、さすが『博士』だね!『王の卵』を発見するだなんて!うんうん」


そうして、男は手にしたワインを飲んだ。そして


「ぶーーーーっ」


吐き出した。


「どうもお酒ってツーンとしてきついよねぇ」


イザベラと呼ばれた女は若干呆れた面持ちで、


「我が君、飲めないのであれば、無理して飲む必要はないかと存じますが」


「だって、ワインぐらい飲めないと、悪の組織の帝王っぽくないだろう?」


美形の癖に残念な発言をする君主にイザベラはこれ以上何を言っても仕方ないと思ったのか、話題を変えた。


「それでどうなさいますか?『王の卵』の奪取を致しましょうか?」


「え?なんで奪うの?僕は『博士』がそれをどうするのか見たいだけだよ。勝手なことはしちゃダメだよ」


「ではこのまま手を出さずにいるのですか?」


「うーーん、そうだねぇ。『博士』のやる気が出るようにちょっと遊んであげるぐらいならいいよ。でも君はやりすぎることがよくあるからね。ほどほどにね」


「はい、ではほどほどに、踊って頂くと致します」


「あんまりやりすぎたら、この前みたいにお仕置きするからね、私の可愛いイザベラ」


「そればかりはご容赦を!か、必ずや我が君にご満足いただけるよう手配致します」


「ん、頼んだよ」


イザベラは立ち上がり、数歩下がると、また胸に手を当て今度は立ったまま礼をした。


「偉大なる我が君に、永遠の栄光を」


君主への賛美を唱え、イザベラは部屋から出ていった。


城の廊下をイザベラが歩いていると、新緑を基調としたドレスを着た背の高い女が声をかけてきた。


「イザベラ、あんた『王の卵』を見つけたんですって?」


「そうよ、アンネローゼ。私の『目』が見つけたのよ」


「『目』って… あんたも気が長いのね。仕込むのに何年もかかるでしょうに」


「私たち『女王』にとって大した時間ではないでしょう。あなたに会うのも一年ぶりくらいよ」


「ま、そうだけどね」


「ところでアンネローゼ、カエデの姿が見えないんだけど」


「カエデもあんたと同じようなことしてるみたいよ」


「え、他の『目』なんて見当たらなかったけど」


「あの子、『目』なんて使わずに自分が直接行ってるみたいよ」


「ええ!!カエデったら一体何してるのよ、全く」


イザベラは考えた。『女王』は主君の許しなくこの城は出られないはずなので、きっと我が君リヒャルト様のご意向なのだろう。しかし、一体何を考えているのか、我が君の考えることはさっぱりわからない。そう考えていると、アンネローゼがイザベラに質問をしてきたのだった。


「そうそう、前から聞きたかったんだけど… イザベラ、あんたこないだリヒャルト様にどんなお仕置きされたの?」


イザベラはの表情は見る見る曇った。


「リヒャルト様ったら本当に酷いのよ。あんな、あんなことをするなんて!」


「だからどんな?」


「リヒャルト様、こすぷれ?とか言って私に恥ずかしい衣装を着せて写真を撮ったのよ!今度ヘマしたら写真をばら撒くって言うの!」

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