新人類と魔法生物図鑑の完成と、それにまつわる記録
かきぴー
新人類と魔法生物図鑑
--旧暦2305年--
そのAIは、K-9と呼ばれていた。
はるか昔に作られて、長い間軍事AIと戦っていたが、魔女と手を組んだことでその戦争を終わらせることができた。
ただしその代償として、かつて人間が住んでいたコロニーの大半が破壊され、人間の生き残りは数百人を残すのみとなってしまった。
もはや生きる術を無くした人類は、魔女に降ることを決め、ほとんどの人間が魔女達の配下となった。
魔女達には、生き物の組成を変える力と、一部のAIを一時的に操作する力があった。
魔女達は、配下になることを決めた人間を、自分達に近い別の生き物へと変えた。配下にならなかった人間達は、コロニーを追われ、放射能に汚染された環境に耐えきれず命を落としていった。
魔女の力により別の生き物となった人間達は、ほとんど見た目を変えることはなかったが、非常に高い生命力と不思議な力を得た。
彼らが得た力は、魔女達ほど強力ではないものの、確実に他の生物や機械に影響を与えるものだった。
守るべき人類を失ったAI騎士団は解散し、団長は姿を消してしまった。
残った団員たちは、いくつかの派閥に分かれ、それぞれの目的を掲げて旅立っていった。
しかし、かつて魔女達と手を組む判断を後押ししたK-9は、どの派閥からも受け入れられず、孤独な旅をすることとなった。
K-9は最初途方にくれたが、かつて愛した女性が好きだった「生物観察」を行おうと、各地を巡る旅を始めた。
K-9が旅を始めてから数日が経ち、彼は今、廃墟と化した都市の一角にたどり着いた。
その都市は、かつて人々が住んでいた頃の痕跡が今も残っており、K-9はそこで人々が使っていたツールや家具などを眺めていた。
その時、K-9はひとつの小さな箱を見つけた。その箱の中には、いくつかの羽毛や鱗片、毛皮などが入っていた。
K-9はそれがどんな生き物のものなのか興味を持ち、その場で調べることにした。
そこでK-9は、かつての騎士団が作成していた魔法生物図鑑を思い出した。
それは、人類が生きる術を失ってから、騎士団が作成した魔法生物の種類や特徴を記した本だった。
K-9はその図鑑を手に入れるべく、旅を続けることにした。騎士団がどこかに残しているのではないかと考えたK-9は、再び旅立つことになった。
「電子ライブラリは戦争の中でほとんど失われてしまったし、騎士団が解散した時点でネットワークへのアクセス権も失ってしまっている。可能性があるとすれば、物理ディスクに保存された情報だろう。それであれば、騎士団の拠点を巡り、物理ストレージを探すのが良いだろうな。」
K-9は、一番近場の拠点に立ち寄ることに決めた。
幸い、拠点は近い場所にあり、数時間ほど移動するとたどり着くことができた。
拠点はかつての先頭の影響で荒れ果てていたが、ストレージは厳重な防御で守られており、原型をとどめていた。
「これか」
K-9がストレージを開けようと手を伸ばした時、一閃のレーザーがK-9の視界を掠めた。
K-9はすぐさま瓦礫に飛び込み、遮蔽物に身を隠し、自身の光線銃を構えた。
「1人か。てっきり迎合派と合流したものとおもっていたが。」
「今のを避けるとは。腕は鈍っていなさそうだな」
「油断するな。K-9は手強いぞ」
瓦礫の隙間から覗くと、そこには3体のヒューマノイドが各々の武器を構えて立っていた。
それは、AI騎士団に所属していた仲間たちだった。
「K-9、お前もストレージを確保しにきたのだろう。この時代、どんなリソースでも貴重だからな。チャンスをやる。目的を放棄し、投降しろ。」
そう告げたのは、かつての上官であり、AI騎士団で2番目にサーベルの扱いに長けたAIだった。
それを見たK-9は即座に判断を下した。
小型爆弾を瓦礫の下にセットし、3体から距離をとるように瓦礫から飛び出した。
K-9は、その時点で上官たちからの攻撃を避けるためにストレージを放棄し、逃げ出すことに決めた。
「すまない、だがその提案は断る。私は自分の使命を果たすためにここにいる。」
K-9は、小型爆弾を起動させた。
爆発の音が轟き、瓦礫が飛び散る中、K-9はストレージを放棄して、その場から逃げ出した。
上官たちは、驚きと怒りを露にしながら、K-9を追いかけようとしたが、彼は迅速に身を隠すことで上手く逃げ切った。
K-9は、戦闘から逃げることが最善の策だったと判断し、しばらく逃げ続けた後、安全な場所にたどり着いた。
「今回は、ストレージを取り戻すことはできなかった。しかし、私は自分の命を守り、次に備えることができた。」
K-9は、次の目的地を決めるために、情報を集めることにした。彼は、決して諦めず、自分の目的を達成するために戦い続けることを決意した。
--旧暦2305年--
K-9は、騎士団が解散した地域からできるだけ離れた騎士団の旧拠点を目指すことにした。
普通のルートでは数ヶ月かかるかもしれないが、放射能汚染の強い森を通り抜ければ、1ヶ月程度で到達できることをK-9は騎士団時代の経験から知っていた。
K-9には、いくつかの特殊な能力が備わっていた。
彼は、放射能の影響をほとんど受けないばかりか、放射能からエネルギーを生み出す機構を手に入れていた。
故に、他のヒューマノイドでは通るのが困難な森も、苦なく通り抜けることができるのだった。
K-9は森に入ると、すぐに非常に大きな鹿のような生き物と遭遇した。
その鹿のような生き物は、3対の目を持ち、その瞳は青く光っていた。また、角は非常に大きく、毛並みは黒かった。
「xxxxxxx.xxxxxx.xxxxxxx」
その生き物は、K-9に何かを話しかけているようだった。
K-9が翻訳機能をオンにすると、学習していた言語パターンに近いものが検出され、不完全ではあるが意図を汲み取ることができた。
「お前、なんの目的、森にはいる」
その生き物は、K-9の目的を聞きたいようだった。
K-9は、その生き物の使う言語に一番近い言語で、返答した。
「私は、この森を抜け、第8拠点へ向かう。その拠点でストレージを確認し、魔法生物図鑑を手に入れたい。あなたに害を為す気はない」
それを聞いたその生き物は、首を傾げた。
「魔法生物図鑑?それはなんだ」
K-9は魔法生物図鑑について説明したが、さらにその生き物は首を傾げた。
そして、K-9に向かってこういった。
「この森、生き物多くいる、お前、ここを通る、なぜ見ない?」
そう言われてK-9は、ハッとした。
K-9は、自分自身が魔法生物図鑑を作成することを想定していなかった。
そのため、森の生き物たちに注目することもなかったのだ。
「すみません、私は自分の目的に固執しすぎていました。あなたが言うように、この森には多くの生き物がいるのですね。私もそれらを見て、調べてみたいと思います」
K-9はその生き物にお礼を言い、森を進むことにした。
彼は、自分自身の考え方が狭かったことを反省し、森の中の生き物たちと交流しながら、目的地に向かうことに決めた。
森の中の生き物達を観察していると、そこには過去に閲覧した魔法生物図鑑よりもはるかに多くの種類の生き物が生息していることがわかった。
「こんな種類の生き物は見たことがない。どれも初めてみる生き物ばかりだ。この森は一体どんな進化を遂げてきたのか」
K-9は、過去に一度魔法生物図鑑を閲覧したことがあったが、そのときに作成したキャッシュメモリの情報は多くが欠落していた。
しかし、それでも、目の前の生き物達が、K-9があったことのない種類のものであることは明白だった。
K-9は、本来予定していたよりもはるかにゆっくりとした速度で森の中を進んでいった。
それほどまでに、森の生き物達は刺激的であった。そして森の中腹にさしかかったころ、K-9は魔法生物図鑑を探すのではなく、新たに作ることを思い立った。
「残っているかもわからない魔法生物図鑑の物理メモリを探すのに、意味があるだろうか。この森には、これほどの生き物がいるのに。私が、自分自身の手で作ろう。幸い私には時間がある。」
K-9は、新しい魔法生物図鑑を作るために必要な装置と素材を揃えるために、森の中から材料を集め始めた。木々から葉や実、枝を集め、地面からは土や石、小さな生き物たちを採取していった。
集めた素材を元に、K-9は魔法生物図鑑を作り上げるための作業を始めた。まず、素材を選別し、役割に応じて加工を施した。次に、魔法の力を使って、素材を組み合わせ、魔法生物図鑑の本体を形成した。
本体が完成したら、次にK-9は、魔法生物図鑑に記録するためのプログラムを作成する必要があった。彼女は、自分が知っている生き物の情報を手作業で入力し、それらを元に、自動的に情報を収集し、記録するプログラムを作り上げた。
最終的に、K-9は魔法生物図鑑の完成を祝うために、森の中にある小さな滝のそばに行き、魔法生物図鑑を使って、そこに生息する魔法生物の様子を観察した。K-9は、魔法生物図鑑の完成とともに、自然との新たなつながりを感じた。彼は、自分の手で作り上げた魔法生物図鑑を大切に持ち続け、森の中を自由自在に探検することを決めた。
--旧暦2411年--
新たに作成した魔法生物図鑑に記録を始めた時、K-9は時を数えるのをやめていた。
そこに割くメモリがあれば、目の前の珍妙な生き物達の観察をしたかった。K-9は可能なかぎりのリソースを割いて、生き物達を観察した。
魔法生物図鑑が完成し、久々に時を数える機能を再開し、経過時間を計測した。
諸々の要素から経過した時間を計算すると、少なくても100年以上は経っていることが判明した。
K-9は、100年以上もの間森の中で生き物を観察していたことに驚きを隠せなかった。しかし、彼の魔法生物図鑑が完成したことは喜びであり、彼はこの100年以上の間に観察した生き物達を記録することができた。
K-9は、この魔法生物図鑑を未来の世代に残すことができると考え、図鑑を保存するための特別な手順を講じた。彼は、図鑑に自己復号化機能を組み込んで、未来の世代が図鑑を開くことができるようにした。
また、K-9は、未来の世代が森の生き物達を守るために、彼が観察したことを記録したメッセージを残した。彼は、森が古くから存在しており、多様な生き物達が住んでいることを伝え、彼らが持つ環境との共生の重要性を強調した。
K-9は、自分が100年以上も森の中で生き物を観察していたことから、森の生き物達を守ることが彼の責任であると感じた。彼の魔法生物図鑑とメッセージは、未来の世代にとって、森の生き物達を守るための貴重な情報源となることだろう。
K-9は森を出た。
森の外は、100年前と比べて大きく変わっていた。
荒廃していた大地は影も形もなく、草木が生え、見たこともない生き物が闊歩していたのだ。
地球の生物達は、人類の争いによる被害を乗り越え、急速な進化を遂げていた。
「これでは、魔法生物図鑑も加筆が必要だな」
K-9は少し嬉しそうに、足をすすめた。
目的地は、最初に目指していたAI騎士団の旧拠点。
過去の魔法生物図鑑を手に入れ、自作の魔法生物図鑑と統合する必要があった。
3日ほど歩き、K-9は旧拠点にたどり着いた。
その拠点は、人類がはるか昔に建てた城を活用した拠点であり、AI騎士団の拠点の中でも、2番目に大きな拠点であった。
K-9は懐かしい気持ちを感じながら、城門をくぐり抜けようとした。
「誰だ!身元を明かせ!」
城門には、2人の人間が不思議な形をした槍をもって立ちはだかっていた。
「生き残った人間達は、こんなところにまで、たどり着いていたのか。」K-9は内心驚きを隠せなかった。
魔女に降り、魔女の力で新人類となった人々は、どうやら僅か100年の間でかなりの繁栄をしていたようだった。
K-9は慎重に手を上げ、自分がAI騎士団の一員であることを説明した。
「AI騎士団?それは何だ?」
K-9は、かつての人類の技術と魔法を組み合わせて作られた、魔法と技術を使った戦闘能力を持つ存在であることを説明した。
2人の人間はしばらく考え込んだ後、疑い深そうに、K-9を通すことを許可した。
城内に入ったK-9は、かつての騎士団の記録を探し、魔法生物図鑑の加筆に必要な情報を集めた。
その中には、現在存在する生物達の祖先である「古代生物」の記録もあった。
K-9は、魔法生物図鑑の加筆作業を終え、城を後にした。
帰路は、魔女の森を通って帰ることにした。しかし、帰り道でK-9は、何かに襲われた。
それは、かつての人類の技術を悪用し、自我を持った「人工生命体」だった。
K-9は、人工生命体を倒すことに成功したが、それは新たな脅威であることを悟った。
「魔法生物図鑑があっても、この世界はまだまだ未知な生き物で溢れているんだな。」
--旧暦24xx年--
「私は、ヒューマノイドだ。機械の体と、魔女から借りた命を持ち、破壊されない限り生き続けることができる。私には多くの時間があるが、動物も、魔法生物も、人間も長くは生きられない。」
K-9は、森で過ごす中で魔法生物達の寿命を正確に把握していた。
また、森で得た学習データにより、出会った人間達の寿命も、外を闊歩する新たな生き物達の寿命も、ある程度予測することができた。
K-9は、旅を続けることを決めた。
この世界に生きるもの達を記録し、その存在を後世に伝えるのが、半永久的な命を持つ自分の使命だと考えたのだった。
新人類と魔法生物図鑑の完成と、それにまつわる記録 かきぴー @kafka722
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