第10話「助けて!って言っていいの?」ー3
手紙をリュックの奥底に仕舞い込んで、教室へ向かうと、楊華と貴衣が駆け寄ってきた。
「妃美子! もう大丈夫なの? インフルエンザだったんだって?」
楊華の凛とした声が教室内に響き渡った。たった1週間会っていなかっただけなのに、なんだかとっても懐かしい感じがした。
「楊華と2人で、前に妃美子から教えてもらった港区のタワーマンションにお見舞いに行ったんだけど、私の記憶違いだったみたいで……違う方が住んでたのよ。後でまた住所教えてね」
貴衣の優しい笑顔を見た妃美子の心に鋭い痛みが走った。
――罪悪感、と、後悔と、嫉妬、を
(どうして、あの時、私は、あんなくだらない嘘を2人に吐いてしまったのだろう……)
楊華と貴衣の家はお金持ちだ。しかも、庶民が思い描くような“普通のお金持ち”ではない。有名な政治家や財界人、芸能人とも交流があり、まるで天上人のような家系だ。
楊華の父は、世界的に有名なファッションデザイナーの“
そして、貴衣の父は、大学病院の院長であり、貴衣の兄ふたりも優秀な医師。母は大手製薬会社社長のご令嬢である。
そんな、ハイパーセレブな2人の前で、“かぶ農家”の娘だなんて言える筈もなかった。本当のことを言ったら、きっと笑われると思った。2人に対して引け目を感じた妃美子は、咄嗟に嘘を吐いた。
「うちの父ぢゃ……パパは、かぶ……株式投資で成功して……その……未上場のベンチャー企業の間で有名な個人投資家なの……」
一度言葉にして創り上げてしまった嘘は、やがて、妃美子の中で現実味を帯び、“虚言” は翼を広げて、玄宗学園高校中を飛び回った。つまらない “虚栄心” が自らを窮地に追い込み、そして、今回の事件を引き起こしてしまった。
(自業自得だ……)
妃美子は、自らを厳しく諌めた。
「あのね……本当はね……」
2人に対し、真実を打ち明けようとした時、予鈴が鳴り響いた。
「ゴメン! 妃美子! 後でゆっくり話きかせて」
そう言って、楊華と貴衣は自分の席へと戻って行った。
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