そして彼女は皇帝となる

第十九話 なんかもう、色々酷い真相。

 ……き……さい、……きなさい。


『起きなさい、そこな男子よ』


 なにか、とても良い声が耳元で囁かれる。

 モヤがかかった頭を何とか動かして目を開けると、落書きみたいな顔が飛び込んできた。


「うわぁ!?」


 思わず飛び退こうとしたが、身体はちょっとしか動かなかった。寝てたし。

 覗き込む、落書きのような顔。


「ななな、」

『oh......男子よ、毒殺されるとは情けない』

「なんでここに居るんだよ多那如多ドナルド!? っていうか、ここどこだよ!?」


 ようやく身体を起こして辺りを見渡せば、そこは金色に輝く場所で、僕はどこにいるのかわからなかった。

 多那如多ドナルドは、派手で大きな翼をバサリ、と広げてこう言った。


『ここはあの世とこの世のborder……あなたは今、生と死のHAZAMAにいるのです……』

「なんかムカつくなその喋り方」

 いい声なのがさらにムカつく。

「っていうか、そこになんでお前がいるんだよ」

『それはともかく。男子よ、あなたは自分が何故こうなったか理解しておりますか』

「それは……」


 記憶にあるのは、藍大将軍と話した後のことまで。

 それで死にかけているということは、正月のりょうりのどれかに、毒が仕込まれていたんだろう。


「僕は、まだ生きているのか?」

『ギリギリなところですな。ですが安心なさい。私があなたを、現世へ送り出してあげましょう』

「ほ、本当か!?」


 いや、なんでこいつがそんなこと出来るんだよ、というごく普通の疑問は出てこなった。そもそも喋れることに疑問を持っておけと、後の僕は思った。

 多那如多ドナルドは、翼で僕の肩を掴む。掴めるんかいそれで。 


『ではいきますぞ。そおおおおおい!!』 

「え、ちょ、」


 多那如多ドナルドは、そのまま僕をぶん投げた。

 GOOD LUCK、という声が、どこかで聞こえた。








「投げ飛ばしかよ!?」


 叫んだ瞬間、目の前が色のある世界へ変わっていた。

 よく見た天井の色に、硬い羅漢床ベッド。……ここは、宮廷じゃない。僕の家だ。

 目の前には、なぜか叔英シューインがいる。

 お、と叔英シューインは言葉を切って、


「起きたのかよ~!! 生きててよかった~!!」


 目いっぱい僕の身体を抱きしめた。

 もう一回死ぬかと思った。


 ■


「目が覚めて、本当に良かったです。ハオ兄さん」

 僕の家には、花鈴ファーリンがいた。恐らく彼女が解毒したのだろう、ということは理解した。

 ひ、酷い夢だった……けれど、一体なんでここにいるのか。


「あの時、兄さんはフグの毒を飲まされていたんです。椒酒に入れられていたのでしょう。それに私が気づいたのは、毒味役が倒れた時でした」

花鈴ファーリン、言ってたもんな。フグは遅効性の毒だって」

「ええ。おまけに、あの時は無礼講の席。誰が何をしてもおかしくありません。慎重に毒味役は選んだのですが……」

「毒味役がすぐ倒れないように、遅効性の毒を使ったんだな」


 おまけに、椒酒の回転率は早い。誰が、いつ注いでくれるかもわからない。


「なので、私も実は、兄さんに毒を仕込んでいたのです」

「……は?」


 こいつ、なんて言った?


「実は毒には様々な成分があり、真逆の毒の成分を同時にとると、相殺されるという性質があります。

 この場合フグの毒は、附子トリカブトの毒によって相殺されます」

「つまり花鈴ファーリンは、僕に毒を接種させることで解毒した、と」


 薬と毒は紙一重だとは知っていたが、そんなことが起きるとは知らなかった。

 ただ、と花鈴ファーリンは言った。


「フグの毒をどれぐらい飲まされたのか、よくわからなくて」

「……ん?」

「しかもフグ毒より附子トリカブト毒の方が長く続くので」

「んんん?」


「倒れた時は、慌ててフグ毒ぶっ込ませたんですけどね!」

「じゃあ倒れたのお前のせいじゃん!!」


 思わず大声で突っ込んでしまった。僕、病み上がりなのに。


「ちょっと待ってください。あのままでは、ハオ兄さんは確実に死んでいましたよ?」

「や、そ、それもそうか……」

「まあとりあえずこのまま死んだことにした方がいいかなって、仮死状態にする程度には殺しましたけど」

「じゃあやっぱりお前のせいじゃん!!」


 酷い。これが僕の従妹か。狂科学者マッドサイエンティストにもほどがある。


「待てよ。僕、死んだことになってるってことは」

「ええ。葬式も行われましたよ」

「……美雨メイユーには、この事は?」

「知らせてませんよ。知っている人間は極わずかな方がいいかなって」

「…………なんで叔英シューイン、ここにいるの?」

「そりゃ勿論」

 答えるまでもないだろう、みたいな口振りで、花鈴ファーリンは言った。





「彼に頼んで、ハオ兄さんの墓、暴いてもらったからですよ♪」

「犯罪行為じゃねぇ――か!! この教唆犯!!」


 もうやだこの従妹。

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