第18話
「余が、キョウルナラ国女帝となり、7日目。前皇帝のイジュン、最愛の付き人スンア、そして初代皇帝の直系ハジュンはこの素晴らしきキョウルナラ国をより繁栄させることを願い、神より重大な任務をお受けになった。それはこの空の遥か彼方の宇宙にある赤い星『火星』へと向かい、そこでキョウルナラ国の国土を開拓するのである!」
女帝自らの第三の宣言を私は最も近い脳という場所で聴き取る。クーデターに向けて、そして成功後を予想し、今後のために行う計画がついに実行する。
ソユルの故郷はかつて宇宙計画の施設があることがわかり、そこの再建に多額の投資をした。そして、それがついに実ったのである。なぜ、宇宙計画を復活させるのか? それはエリスが初代皇帝の血族でないこと、前皇帝もいること、これらが起因する。つまり、「一切の罪を背負わずに、皇帝の座に君臨する方法」として、「火星でのミッションを行うため」宇宙に旅立ってもらうのである。ちなみに、AIこと、ソアの時代には火星計画は順調に進んでおり、物資を2年に1回送り、また同時に調査報告を受けながら、徐々に人々が住めるようにしていった。だいたい、私のときで2年間人々が閉鎖空間に閉じ込められても問題がなくなったこと、電波システムは超極寒の状態でも耐えうるようになったというニュースを聞いたことがある。そこから進歩が進んでいるのは間違いなく、それゆえにロストテクノロジー化が地球で起きているのだと考えられなくもない。
第三の宣言後、エリスは宇宙ステーションの跡地でついでに見つかったという車をなんとか3台復活させて、移動を開始する。水素で動き、しかも3日間は走行し続けても問題ないという。私の生身があった時代より優れた車なんて、驚きである。ちなみに宇宙計画の施設名は「ヒマン」と名付けられた。
ヒマンまでは泊を含めて1.5日かかる、とのこと。宇宙へ飛び立つ者は後ろの車に乗せて、その後ろに使いたちを乗せる。当然飛び立つ者たちには手足に鎖を巻いている。エリスも彼らと話す気はないとのことであり、そのようなかたちとなった。車の中では、エリスと会話をしていた。
なぜ、宇宙を目指すことになったのかしら。人口が増え続けてしまうと、食糧危機が訪れてしまうので、宇宙なら食糧や薬の確保先が行え、解消できるかも、と考えたからよ。どんなもので宇宙へ飛び立てるのかしら。ロケットといって、細長い乗り物よ。あの硬いパンみたいなのを立てたのにそっくりなのよ。ロケットはどうやって飛ぶのかしら。風船を膨らまして手を離すと勢いよく飛ぶでしょ? 原理はあれと同じだけど地球には物を引っ張る力があるからそこから抜ける必要があるの。なので、燃える水を燃やして上にいくの。ただ、一つだけではダメ。何個も切り捨てながら使うことで宇宙に行けるのよ。火星まではどれくらいかかるのかしら。2年よ。だから、ロケットの先端にはたくさんの食糧と水を蓄えて飛んでもらうわ。
そんな他愛もない会話を何事もない移動と泊まりで行い、ソユルの故郷に到着した。現地の人々は最初の旅の時に見た人々と何も変わらなかった。老若男女やせ細った身体、気温は寒くなりだす時期にも関わらず、今にも切れそうな生地を着ている。住居も四角いフレーム状に丸太を組んで重ねただけの家しかない。AIとしては、「中が暖かい」という情報が出ているけどとてもじゃないが私には住める気がしない。エリスだってきっと同じことを考えていて、それを形に表した。ソユルの功績もたたえて、この村には多くの事業発展に貢献する、という約束をした。これで、この村は女帝のもと、大きく発展を遂げることになるだろう。
儀式の装束を着て、少しマシな格好をした人がロケットのある場所に案内してくれた。そこは本来、森だったらしく、大急ぎで伐採した後が残るところを歩いた。暫く歩くと道がひらけ、そこには私が思うロケットだけが佇んでいるにはいるのだが・・・。
「小さ!」
いや、そもそも移動の時に姿かたちを捉えられなかったのだから、なにか怪しむべきだった。しかもてっぺんは丸太小屋がそのまま乗ってる。
「え、要望通りでしょ?」
エリスは呑気にそんな事を言う。いやもっとでかいから。おそらく、ここの世界の人にとっては一番長いものは木とかそのあたりが限界なのだろう。というより、てっぺんの部分は人が住めるのよね?
「ソユルと会ったら、実証実験はどうだったか聞いてもらえる?」
私はエリスに脳内で伝えた。
「衛生機能は間に合いませんでしたが、飛ばした実験ロケットについては、問題なく空の彼方にいき、見つかりませんでした。」
明らかにこの地域には合わない超おしゃれな貴族の衣装を着て、ソユルは喜々と答える。それは単にロケットの残骸が見つかってないだけのような気がする。
ただ、ロケットは要望通り3段構造で、丸太小屋にもロケット機能があるという。木についても燃えない特殊な構造で作ったそうだ。多分、私が覚醒する前の世界で木が燃えないようにする技術が開発されて、それもテクノロジーとして復活させたのかな。
「素晴らしいわ。今日すぐに行うことは可能かしら?」
「はい、白夜なので問題はございません」
今日は、白夜なのか。天候は現地確認かな、と思ったが天候は恵まれていた。あまり長い期間をかけたいことでもないので、これは運が良い。それにしても、エリスは大切な時に白夜の天気になること多いのかな。
その言葉を聞いて、3名を即座にロケットの上にある丸太小屋に乗せた。ちなみに宇宙服に関しては美術館に展示されていたため、素材などを調べてオーダーメイドで作成してもらった。素材の入手とか与圧の技術等課題は多かったが、ソユルとAI機能、そして早い段階でソユル特製の3Dプリンターもあって、思いの外順調に作成が進み、それぞれ用途に応じた4種類を完成させた。
丸太小屋は・・・中が明らかに普通の家だったけどもう諦めて(どうせ地球上から消すのが目的だし)、ぎゅうぎゅう色々といれていき、着座席のシートベルトをエリスがつける。警備の人が常に3人の頭に銃を突きつけた状態で対応した。3人は諦観なのか、ここに来るまでの間、一切無反応だった。そして、3人に対しては永遠の別れとなるのだが、エリスもそれに3人の意向に答え、一切の会話をしなかった。
無言の空気のまま、丸太小屋から出て、安全地帯まで移動する。
「私が押すわ」
安全地帯に到着すると、エリスは女帝の顔となって、ソユルに言う。
彼は、静かに膝を下げ、リモコンを献上した。
エリスはおそらく気づいているはずだ。このリモコンのボタンを押した瞬間、あの3人はもう帰ってこないことを。自分が女帝としての永遠の座を手に入れるために犠牲になることも。彼女は確かに権力の座を欲する強欲の持ち主だが、本来、慈愛に満ち、殺生を避けれるなら、避けて物事を解決したがる人物である。そのため、彼女は重い決断をしている。今回、第三の宣言のとき、発射の時間は発表しなかった。確定できない、ということだけでなく見世物にしたくなかった、とエリスは私に教えてくれた。
エリスはただ、ロケットを見つめ親指で重々しくボタンを押したのだった。
ロケットは即座に発射された。大量のソニックウェーブが出ているらしく、中途半端に着られた株たちは根ごと抜かれていっている。あの小型さで威力が凄まじい。そのまま空を見上げると第1の燃焼基が外れ、第2が噴出を開始した。そして、最後の分解が始まるのは見えることなく、ただただ、白夜の空に真っ直ぐな雲が描かれて消えるだけだった。
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