82話 過去最高の舞台が来る
雪が降ったりやんだりな一週間が過ぎていく。
週末を抜けて月曜日がやってくると、その日はメイとの密会だった。
洗濯物の入ったバッグをかついでコインランドリーへ向かう。
ほとんど同じタイミングでメイがやってきた。
店内にお客さんはいなかったので同時に入る。
お互いに洗濯を始めると、自販機でホットレモンを買ってからテーブルに向き合って座る。
すっかり当たり前になった流れを今日も繰り返す。
「はあ……」
メイはいきなりため息をついた。
「どうかした?」
「今日、進路の話とか学校でしたの。先生もあたしが配信やってることは知ってるから、この先はどうするのかってね」
「大学へ行くんだよね?」
「うん、長野学院大かな」
市内にある大学だ。
「高校卒業したらそのまま配信者一本でやってもいいけど、お父さんが大学は行っておけって言うし」
「大学行かなかったら、暇な時間はたくさんできそうだよね」
「そう。だからユッキーと一緒に東京で暮らしてもいいと思ったりして」
「まだ、合格できるかわからないから」
「ユッキーならできるよ。数字がちゃんと出てるんだから」
僕はなんとなく照れくさくて、ホットレモンを飲んで間を作る。
「でも東京の方がファンに見つかる危険は高いと思うんだよな」
「だよね~。だからあたしはこっちに残って、週末こっそり会いに行くスタイルでやっていければいいかなって思うんだけど」
「それだと、今とそんなに変わらないね」
「あ、確かに」
週に一回会う関係。メイの移動負担が大きくなってしまうけど、東京と長野は新幹線一本で往復できる。不可能じゃない。
「進学するってなるとさ、やっぱあたしも勉強はしっかりしなきゃいけないじゃん。そんな頭よくないし、三年生になったら前よりそっちに時間使うことになると思うんだ」
「ダンス活動は窮屈になるね」
「うん。今日知ったんだけど、月詩は
「おお、すごく偏差値の高いところだ」
じゃあ僕と月詩さんの学力はほぼ互角か……?
「ってことは、三年になったら今より勉強メインになるじゃん。撮影で受験勉強の邪魔はしたくないの。だから絶対に活動頻度は落ちるんだよ。それは配信で言っておけばみんなわかってくれるはずだけど」
VTuberとかでも「学業に専念するため」という理由で活動を休止する人はいる。
この場合、メイ自身と、機材担当の月詩さんがどちらも受験生というのが壁になってくる。
「メイのファンなら、続けてくれるだけで嬉しいって言ってくれるよ」
「そうかな……?」
「大丈夫。みんなメイの味方だから」
メイはちょっと自信なさげにうなずく。
進路の話を真剣に考えているみたいで、今日はいつもより表情が硬い。
「そうだね……。でも活動頻度落ちる前に、なんかでっかい企画とかやってみたいなあ。それでみんなにまだまだ頑張るよ! ってアピールできたら、なんて……」
「高校二年生の集大成的なものをやりたい?」
「それそれ! これをやったら四月からダンス動画はしばらく出せませんってきっぱりライン引く感じにしたい」
「なるほど。雑談配信だけは続けていく?」
「とりあえずそのつもり」
「だったらファンの人たちも安心だ」
完全に沈黙してしまうと、どうしてもファンは離れていく。動きがあれば残ってくれる人は必ずいるのだ。
「じゃあ、企画を考えないとね」
「そーね。なんか真面目な話になっちゃったけど」
「大切なことだよ。勝負の年だからプランはあった方がいい」
とはいえ、でっかい企画なんてそうそう思いつかない。
広告収入のおかげで予算はあるだろうけど、肝心の内容を考えるのに手こずりそうだ。
「みんなに、この一年でいっぱいステップアップしたよって伝えられるのが一番いいな」
「じゃあ、今までに出した踊ってみたのメドレーとか?」
「それいいかも。上手く曲をつなげて、ちょっと長い動画にすればみんな繰り返し見てくれそうだよね」
思いつきだったけど、悪くなさそうだ。メイも乗り気になってくれた。
「その場合はどうやって振り付けをつなげるかなんだけど…………ん?」
メイのスマホが鳴った。
「あれ、キャスにメッセージ来てる」
「それって誰でも送れるの?」
「んーん、運営が何か言ってくるとき専用のやつだよ。なになに……」
メイは真剣な顔で文章を読んでいる。僕は首をかしげていた。
ムービーキャストの運営からメッセージ?
それって、アップした動画に問題があった時に来るイメージなんだけど……。
「うそ……マジ?」
メイがびっくりした顔で声を上げた。
僕の方を見て、口をパクパクさせている。……どういう反応?
「メイ、何かあったの?」
「ユッキー、落ち着いて聞いてほしいんだけど」
「う、うん」
メイはいつもより低い声で言った。
「
「え……?」
「その
……これは神様の気まぐれか、それとも必然か。
これ以上ない舞台が、向こうからやってきた――。
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