38.亡者のキミの革命前夜③
「いいえ、意味ならあります!!!」
「そんなもの、あるはずがない!!!」
僕は魔法を避け、切り裂き、兄様の元へ向かっていく。
「僕が幼い頃に兄様が読み聞かせてくれた物語、今でも憶えています!!!!
『空色ウサギの大冒険』に『火山の精霊ボルケーノトカゲチャン』、ちょっと長めの『ブーケ・ド・グラースの創剣記』。あれは何日もかかりましたね。それにちょっと怖い『うおあたま』も!
兄様は僕に毎晩読み聞かせてくれたのを、憶えていますか...?
もしあなたとって、それが何でもない流れ作業だったとしても、僕にとっては、兄様がくれた大切な…今の僕を構成する、大事な一欠片なんです!!!!」
兄のところへ近づいて行くにつれて、漆黒のチャクラムの飛んでくる密度が上がる。
靴の風で飛び上がり、木を蹴り、避ける。
「少なくとも、それらの物語は僕を笑顔にし、時に興奮させ、恐怖させ…身近にあるもののことをもっとよく調べたい、まだ知らない世界の様々なことを知りたい…そんな意欲を抱かせた!!事故や失敗すらも、奇跡や成功への期待に変えた!!!」
僕は隙間を、兄様の元にたどり着く道を見つけた!
その一点へと、真っ直ぐに進んでいく。
「兄様!あなたという人間が!
物語という虚構を通して!僕という現実に影響を与えたんだ!!」
兄はまた剣を作り出し、僕の振る灰色のブーケ・ド・グラースと激突する。
「...適当なことを、言いやがって!
まるで意味がわからない!」
「本当はわかってるくせに!」
「いいやわからない!
俺は、苦痛でくだらない最悪な現実、理不尽な運命にあらがって、新しい世界を作ったんだ!!!
俺は周りの奴らが平気な顔して放置していやがったゴミを、ゴミ箱に入れただけだ!!
わかるか?これは『革命』なんだよ!!!」
ぶつけ合う剣の刃をじりじりと言わせながら、対峙している。
「そんなのは...革命なんかじゃない。」
僕は静かに、それでいて強く明確に、兄に言った。
「なんだと!!」
兄は強く剣を押した。
僕は膝をつく。しかし-
「確かにゴミはゴミ箱にちゃんと捨てるべきです。
ですが兄様、あなたが捨てたそれはゴミなんかじゃなかった。
あなたはただ元あったものを…誰かが作ったもの、大事にしてきたものを、いたずらに破壊しただけ。幼稚な悪ガキみたいに嘲笑って、捨てただけ。
自分では何も生み出しちゃいない...!」
剣に強く、確かに力を込め、徐々に押し返していく。
「既にあるものが気に食わなかったり、気に入っていたけど壊れてしまったりしたとしたら...
それを使って、新たな何かを生み出す...
そこまでして初めて、『革命』と呼べるんだ!!!」
そして剣を弾き飛ばした。
兄は、無防備になった。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
僕は剣を大きく、大きく振り上げる。
これ以上ないくらいの隙を見せる大振りをした。
避けようと思えば、いくらでも避けられた。
だけど兄は、手を大きく広げた。
...
...
...
僕は兄の心臓を剣で貫いたまま、兄に抱きしめられていた。
「てめえ、ロゼット、唯一の肉親であるこの俺を...兄を殺しやがったな...」
「..................いいえ、兄様は自分で死んだのです」
「責任転嫁するのか、ロゼット」
「はい...全部。兄様のせいです」
すると兄は笑った。
それは歪だけど、歪じゃなくて---
「はっはっはっはっは...!!!」
こんな顔を見るのは何年ぶりだろう。兄は思い切り笑っていた。
「それでいい!その冷酷さこそ、王に相応しい...!!」
兄はむせた。
「なんて...どこの誰でもない、部外者の...他人の俺なんかに言われたところで...だからなんだという話だが...」
僕は首を横に振った。
「いいえ、兄様は兄様です...!」
「大丈夫だ、お前なら...花の国フラストノワールを...再建できる...
今度こそ、俺みたいな奴なんかに簡単に滅ぼされない...そんな国を...作るんだ...
あと...忘れるところだった...
俺に魔法を教えたのは...大男...名前はわからないが...探窟家ギルドで出会った...
今は、コニスカラメル王の...右腕なんかを称している...白い法衣を着た、巨体の男だ...。
悪い、こんな情報じゃ、わからないよな...?」
「いや、わかります。ありがとう、兄様...」
「ああ、だよな、わからないよな...ロゼット...でも、きっとわかる...お前なら......」
「兄様?」
「なぜならもう、お前は、貴様は.........」
「兄様!!!」
「花の国王、ロゼット=フラストノワール........................」
兄はそう、言った。
すると、僕に重く体重がのしかかった。
「.........。」
僕は兄様を地面に寝かせた。
すると数秒後、その体は真っ黒になりドロドロに溶けた。
驚いたけど、もっと泣き出しそうだったけど、驚き続けているほど僕は打たれ弱くはなかった。
「兄様。今まで兄様でいてくれて、ありがとうございました。」
そして涙を拭って、振り返った。
「サマー、行こう。シエルを助けに。」
サマーは黙って頷いた。
そして僕たちは、星の国コニスカラメルへと向かった。
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