28.各国への来訪②
ムーニャリウムは地面が砂、砂、砂の砂漠だった。
それはとても暑い熱砂...と言いたいところだが、実際にはとても涼しかった。
それは上空、青空に白い雲で描かれた人工星座"かき氷パフェ座"のおかげだった。
路上でバザーをやっていたり、不思議さとシンプルさを兼ね備えた建造物群は、フラストノワールのそれとはまた違った芸術発展の趣が見られてとても興味深かった。
そして城についた。
兵士は一瞬僕を警戒する。
しかしシエルと目を合わせると、それだけで精神的な会話のやりとりをしたらしい。
すぐに警戒を解き、僕らを通した。
「さあ、行きましょう」
そして城の中に入り、突然誰かに抱きつかれた。
それが誰なのかは明白だった。
「カウディア王子、お久しぶ、じゃなくてはじめま」
「はーっはっはっはー!待っていたぞ!ロゼット=フラストノワール第二王子よ!」
「えっ!?今、なんて?」
「その服、どうやら役に立てたようで良かったよ!
だが安心したまえ、ちゃんと洗ってから渡したからな!
僕の血や汗や涙とかは、染み込んでいないはずだ!!」
「そうなんですか。いえそれよりもっ、僕のことを覚えてくれているのですか!?」
「いいや、覚えていなかった!」
「シエルがカウディア王子にロゼットのことを話したの?」
「まあ、そうなんだけど...」
「覚えていなかったぞ!さっきのさっきまではな!妹の話を聞いても、いまいち思い出せなかった!
しかし今実際に君と出会って、ようやく思い出せたぞ!」
するとカウディア王子は僕を抱きしめる力をより強くした。
「うぐっ!?」
「ロゼット王子!
君が先ほど何者か...(何者か、というのは僕のことなのだが!)に抱きつかれた時、"これはカウディア王子だ!"と、頭の中で思っただろう!?
それに付随して、以前僕と会ったときのことを思い出しただろう!?」
「はい」
「僕はそれを"視"たのだ!
僕は、ロゼット王子が思い出した"ロゼット王子が僕と出会い、言葉を交わした際の記憶"をみたことで!
実際には思い出していないが、間接的に君のことを思い出したのだ!」
「複雑ですが、とにかく僕のことを思い出してくれたってことでいいんですよね?」
「ああ、もちろんだっ!!」
カウディア王子は僕を強くしめた。
「ぐ、くるしい...!」
「おおっ、すまない!」
そう言って彼は僕を解放した。
「君が無事で良かったと思ったら、つい強く抱きしめてしまった...!」
「い、いえ、お気になさらず...」
その後王様と王妃様にも会った。
2人も同様にムーニャリウム王家の特殊な術で、僕のことを"厳密には思い出していないけど間接的に思い出してくれた"。
「フラストノワールが突然消え...何が起きているのだろうな」
「他の王家にもフラストノワールについて伝えておきましょう」
王と王妃は言った。
「お聞きしたいことがあるのですが...」
「何だ?聞くだけなら何でも聞こう。遠慮せず言ってくれ」
「中央にあるという星の国、宗主国コニスカラメル...あれは何なのですか?」
「何なのとは...?
あ、おお、前はかの国は"無かった"というのか!
しかし、そんなことがあり得るのか...?」
「私からも。」
サマーは言った。
「以前は確かにこの大陸には、花の国フラストノワール・鳥の国セセルカグラ・風の国ウィンディライン・月の国ムーニャリウム。
この四国のみで成り立っていて、中央区には国はおろか町も人もいなかったはずです。」
「ふむ、ということはコニスカラメルが怪しいのか...?いやしかし...」
王様は髭を摘んだ。
「しかし...?」
僕は訊いた。
するとカウディア王子が言った。
「1年前くらいだろうか。星の国の国王コズミキ=コニスと会ったのだ。
その時彼女から感じ取った記憶では、はるか古の時代からコニスカラメルが存在したことは間違いなかった。
少なくともコズミキ=コニス本人は、そう思っていたようだった。」
続けてシエルが言った。
「なら、コニスカラメルが怪しいにしても、国王であるコズミキ=コニス様の記憶すら捏造して操ってる"黒幕"が他にいる...そういうことなのかな...?」
「ああ、多分...どうやらそんな感じだなあ...くそっ、親友の国が消えているというのに、何もわからないのが心底心苦しい...!」
王様は言った。
「しかし、怪しいに越したことはありません。
来月、あの魔法事件から1000周年、平和が続いたことを祝う式典がコニスカラメルで行われますよね。
そこで怪しい動きをしている人がいたら、取り押さえましょう...!」
シエルが言った。
「そうだな、すぐに取り押さえよう!そしてボコボコに-」
王様が言った。
「いや、それは流石に早計ではありませんか?シエルも、父上も。」
カウディア王子が言った。
「そうね。シエル、ちょっと張り切りすぎている感じだわ」
王妃様が言った。
「あっ...すみません」
シエルは俯いた。
「私だけ何も思い出せないし、みんなみたいに記憶を読み取ることもできないし...
それでも何か役に立ちたくて...」
するとサマーがシエルの肩にぽんと手を置いた。
僕も言った。
「全然気にしないでください、その気持ちが嬉しいから」
「...ごめんなさい。」
シエルは困り眉で微笑んだ。
彼らに別れを告げ、僕とサマーはムーニャリウム城を出た。
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