12.休日③
フラストノワールの城の自室。
"ありがとう"
そう書かれた便箋を見て、喜びを噛み締める。
「...よし!」
僕はついガッツポーズした。
その時、ドアをノックする音がした。
「入るぞ」
「はい」
「父様、お疲れ様です」
「お前こそ。学び舎はどうだ?」
「はい、実は今朝、校舎が完成したんです!」
「おお、それは良かったな」
「あとは高速蒸気機関車の線路を引いて、生徒や教師を呼ぶだけなんですけど...
線路はやっとくから〜って帰らされてしまって。1ヶ月、休暇になってしまいました...。」
「...そうか、それは良かったじゃないか」
「良くないですよ、どうせなら全部関わりたいじゃないですか。」
「...王として、人に任せることも大切だぞ」
「まあ...そうかもしれませ-「そう...今までヴァントには言ってきたが。」
「?」
「社交界の日、風の国の王女が消えた時、お前は言ったよな。第二王子だから別にいなくなってもいいと。」
「はい...それがどうかしたんですか?」
「いい意味で、もちろん良い意味でだぞ?
お前は別に王位を継承する責務があるわけじゃない。だからこそ、どこにでも行ける。」
父は珍しく言い澱んでいた。
「だから...やりたい仕事があったらそのためにこの城から出て行ってもいいし、どこかで例えば...好きな人が出来たりしたら、その人と暮らしてもいい。
相手は王族や貴族の娘でないとならないとか、そんなことはないぞ。
裕福でなくても楽しく暮らせる自信があるというのなら、一般庶民と結婚しても構わない。
変な例えなんだが、たとえその相手人間でない異形だったとしても、お前が認めた相手だったら誰だって構わない。
ああっ、別に絶対に貴族と結婚してはいけないダメというわけではないし、とにかくお前は自由にしていいって、そういうことが言いたいんだ私は。」
父は珍しく、不器用に言った。
「もちろん別に出てけとか言ってるわけでもないぞ?この城にいつまででもいてくれたっていいんだ。」
「父様」
「...なんだ?」
「僕...いえ、このロゼット=フラストノワールには婚約したい相手がいます」
「...ええっ!?」
父は驚いた。
「聞き間違いではないよな?
婚約したい相手がいる...そう言ったか?」
「はい、婚約したい相手がいます」
そして目を瞑って何度も頷くと、頭を掻いた。
けど一辺倒に困っている様子ではなかった。微かに笑んでいた。
「それはどんな人だ?おそらく学び舎を作る中で出会った人だろう?
じゃあ建設ギルド?それとも交通管理ギルドの受付嬢とか?
いや、偶然通りすがりで見かけただけの町娘...いやそれは流石に、慎重になった方がいい。
ああ、違うんだ。別にいいんだ、そういう恋にチャレンジするのは。
だが一方的な一目惚れというのは失敗することもある。それを覚悟しておけ。」
「父様、父様!?」
自分の世界に入ってしまって喋っていた父を、呼び戻した。
「はっ!...なんだ?どうした?」
「僕が婚約したい相手は、風の国の王女、サマーブリージアウィンディライン王女です。」
僕は今まで一番と言っていいくらい真剣に言った。
「...!」
父はとても驚いた。
けど、受け入れた。
「わかった。それなら今月中に...いや、明日でもすぐに書類を作り、正式な婚約の申し込みをしようか。」
「ありがとうございます。父様に納得していただけたら、すぐにそうする予定でいました。」
「うむ」
それから少し沈黙が流れた。
そして-
「それとなのですが-」
「それとなんだが-」
被った。
「父様どうぞ」
「いや、お前が先に言え」
「わかりました」
「いや待て」
「同時に言いますか?」
「よくわかったな。そうだ。じゃあ行くぞ、せーの」
「兄様の誕生日パーティー!」
「ヴァントの誕生日!」
僕と父は拳を突き合わせた。
「しかし誕生日パーティーはなあ、3人だけでやっても全然構わないが...そこまで盛り上がらないだろうな...
私からは、ずっと使える実用性重視の誕生日プレゼントをさっと、渡すのがあいつにはいいだろう。」
「では使用人も全員参加する大きなパーティーにするのはどうでしょう?」
「なるほど...いいな。あいつはそもそもパーティー自体嫌いそうだが、まあいいだろう!」
「...いいですかね?」
「ああ、もちろん!良い...よな?」
「...」
「...」
沈黙ののち、僕は黙って頷いた。
何度も頷く。頷き合う。
別に曲が流れているわけではないのに...次第に、陽気な音楽に乗っているような気分で頭を振っていた。
「会場は」
「城の中...」
「どの部屋がいいだろう?」
「それはやっぱりダイニングルーム!いや、庭でもいいかもしれません」
「飾り付けは?料理は?」
「こうしてああしてこう!」
「ふむ、なるほど、それは良さそうだ」
「誕生日プレゼントは?」
「探検...探検...そうだ、帽子とかどうだ?」
「いいかもしれません!」
「それじゃあ明日見に行こう!」
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