第75話 鍵 後編 その2
追撃を予感する青木、その選択肢は寝技からの関節、或いは上方向からの打撃。
打撃ならいくらかダメージをもらう覚悟をきめないと感じたが、アスカはその選択肢から外れた行動にでる。
倒れている青木から離れるように、ロープに走り出し、ロープの反動をつけ戻ってきての、膝裏のギロチンドロップ。
そして、ドロップ後は、間合いを取り歓声を受けるように観客にアピールを行った。
青木には軽い喉部への痛みのみで、対して試合に影響するものではなかった。
その間にふらつきなども、なくなりダウンからスタンドに戻る。
試合を見ていた格闘技者達は眉間にシワを寄せていた。
その中には、観客席にいた柊木櫂と、特別会席席にいた比嘉秦王も入っている。
チャンスをみすみす棒に振った、その認識だ。
実況解説者は比嘉に意見を求めるも、比嘉は無愛想に答えない、アスカの取った下らないパフォーマンスに言及したくないといった様子だ。
比嘉が目を離したタイミングで、会場内に軽快な破裂音が響き渡る。
青木の放った強烈な左ミドルだ。
青木は一定の距離を取りつつ、左ミドルで試合を展開するつもりだった。
リーチの差、体格差を考えると一気に間を詰めることはできないと判断、左ミドルをガードの上から2発蹴られた後、アスカは少し下がり様子を見る。
柊木櫂は、それを見て考える。
(確かに、左で距離を取りながら戦うのは有効だな、しかし、現実じゃ相手を止めるミドルを完璧に打ち続けるのは不可能だろう)
しかし、この展開はかなり青木にとってかなり優先と判断した。
この展開に無口だったの比嘉は雄弁に語り始める。
「対策はありますよ、左ミドルに対しては、タイミングを合わせて右のフックをカウンター、或いは、単純に左ミドルの隙をついて間を詰める事もできますから、ある一定のレベルなら直ぐに対応できますよ、まぁ、あのアスカというプロレスラーにはどちらも無理な話ですかね」
実況は少し言葉につまるが、実際にアスカは対応できずにいいように左ミドルでアスカは手が出ずに打つ手なし、そう思えた。
左ミドルを受け続けることによって、アスカの体力は削られ、右腕にダメージが蓄積している。
もし左ミドルを打ち続けて青木がスタミナ切れになったとしても、効果的な反撃の手立てはないように思えた。
一方的な試合展開に進むになっていった。
そんな中、アスカの口元に笑みを浮かべる。
それは強がりの笑みに思えた。
青木は止めの動作に入る。
(恥をかかせた借りは返させてもらう)
青木は、左ミドルで目を慣らして置いて、左ハイキックを顔面に向かい繰り出す。
直撃、手応えも十分、青木は勝ったと思ったが、飛鳥は少しふらつくがダウンをしない。
(さすがプロレスラー耐久力だけは一流だ)
そう思いながら。
青木は二の矢を放つ。二の矢は、同じ左のキックであったが、アスカがガードを上げた事を確認し、ミドルにすることに決める。
(ガラ空きの腹に食らいな)
渾身の力で左ミドルを右脇腹にねじ込む、勝負あり誰もがそう思った。
だが、実際アスカはダウンせず、自身の右腕と左腕で青木の左脚を掴む。
その状況に場内は歓声を上げる、左ハイキックを直撃を受けてもダウンせずに、両方の足でしっかりリングを踏みしめているのだ。
青木は考える。
(まさか、その腕だ何もできるはずがない、組み倒す事すらできないはずだ、もし組み倒しても寝技なら私が圧倒できる)
しかし、アスカの行った行動は、押し倒す事も引きつける事もしなかった、その場で捕まえた右足を軸に回転、プロレス技をのドラゴンスクリューを繰り出す。
比嘉と柊木は、ドラゴンスクリューよりも、その前、左ハイキックを食らったアスカに違和感を感じていた。
左ハイキックは確実に入っていた、しかし、ワザと食らったと思えた。
その見解は正しい。
実際あすかは左ハイキックがくる事も読んでいた、ガードする事もできたが、あえて食らう事を選んだ、受けることによってダメージを与えたと青木は考える。
ハイキックを食らってガードを上げる、そうすれば空いた脇腹を狙う事も容易に想像できる。
ガードの上から蹴り足を突っ込むことはアスカの技術では不可能だが、頭部に添えた腕から蹴り足を掴むことはそう難しいことではなかった。
あえて食らう必要のない左ハイキックを直撃、普通では考えられない戦略をやってのけた彼女に比嘉は舌を巻いた。
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