第55話 無双の虎 中編
矢野が話始めようとした時に、不意に話をかけられる。
「すみません、もしかして金メダリストの矢野さんでしょうか」
ファンの1人に話をかけられ、会話が中断されてしまうが、矢野は笑みを浮かべて対応する。
有名人だからではない、彼自身の人柄が誰に対しても寛大で礼儀をわきまえた対応をする事を意識していたのだった。
ファンの対応が終わり、林との会話に戻る、また、途中で会話を遮られないとも限らない、矢野は単刀直入に会話を始める。
「お前の指導は間違っていない、そして、柔道は強い、田上には、けじめをつけさせる」
林は、その話題になる事はわかっていた。
田上一(はじめ)は、元柔道選手であり、日本代表に選ばれた男だ。
期待もされていた、しかし、ある一言を発し、引退する。
「俺が強くなる為に、『柔道の日本代表』なんて通過点に過ぎませんよ、打撃もない柔道、投げ締めの技術としてもまぁ及第点って所じゃないでしょうか、俺は強くなる為に総合の世界に転向します」
その発言に、憤りを感じた一部の柔道選手は、田上を呼び出すが、結果として敗北、その中に林の教え子も含まれていた。
挑発され挑んだ事よりも、自分が教えた『柔道』が役に立たなかった事にも落ち込み、そのために、林は柔道の道を退く事を考えていたのだ。
「お前が、嫌、俺達が打ち込んだ柔道が強い事を俺が説明する、田上は明日、北海道にいる、その時に田上には言った言葉を後悔させるつもりだ」
矢野は、人格者であり、礼節をわきまえる男であるが、誰かが真剣に取り組んでいる物を侮辱する輩には遠慮せずに、強く拒否を示す男である。
林は、国民栄誉賞を取った男とは思えない発言に軽く笑みを浮かべた。
明日、どのような形になるかわからないが、矢野なら強さを、証明してくれるような気がした。
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