第53話 誉 後編

 天上院には、ある掟がある。


 天上院の跡継ぎの男子は、幼い頃は、豊かな暮らしをせず、身元も明かされないまま成人を迎え、その時に、その名を恥じない者こそ、天上院の名を継ぐ事を許される。


 しかし、ある疑問が浮かぶ。


 『もし、その時に相応しい男がいなければ、天上院家は途絶えるのではないか』


 

 天上院我狼は、結婚しているが連れ添いには先立たれており、娘が1人、秘書の黒美。


 そして、一つの噂話。


 『天上院家は、自分の跡取り候補として、何人もの子を密かに育てている』


 そんな馬鹿な噂話だ。


 その話を切り出され、天上院は鼻で笑い答える。


 「さぁな」


 天上院ら、下らない噂話として一蹴する、否定も肯定もない。



 「ところで、他にはいないのか」


 選考段階である事を付け加え、合気道の工藤純、パンクラス秋山、総合格闘家の木村の名を上げる。



 天上院は、何名かの名前を聞き、自身が推薦した常磐天空がどうなったのか訊ねる。


 学園選抜試験で、勝ち残ったのは、修羅阿修羅と常磐天空、後、ボクシングの安達一は実力不足、阿修羅は別の要件で参加は見送り、学園としては天空を推薦していたのだが。


 「横綱がでるのに、入門前の見習い力士がでる理由はないだろう」


 黒服の答えに、天上院は大きくため息をつく。


 「わかってないな、あの膝だぞ、相撲はつよいかもしれんが、横綱は異種格闘技戦は出来ん、総合的に考えれば天空だ」


 「そうは言っても世間は納得しないはずだ」



 2人はお互い身を合わし、そして、視線を逸らす。

 「まぁいい、だが、これだけか」


 参加者は16名と聞いていたが、選考中と言っても足りていない。


 「俺が受け持つのは、このメンバーだが、正直他の情報はない」


 そういうものか、なら他は後日でと、天上院は話を区切る。


 「まってくれ、先ほどの話、天上院は、何人か跡取り候補は本当にいるのか」


 その問いに天上院は、今度は隠さず答える。


 「隠すつもりはないが、吹聴して回ることもない、俺が認めている子供は3名いる、言える事はそれだけだ」


 黒服は、ツバを飲み込む。


 その子供の内1人は娘、あと2人、黒服はその2人について知りたいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る