隻腕 〜ラウェイ〜
第42話 侍 前編
櫂は、スマホで誰かと話しをしている。
石森が怪我をし、王座を失い、自分自身も試合も中止していた。
本当なら、隻腕の北岡兵衛を倒し、アルティメットトーナメントに参加する予定であったが、それも全て白紙に戻した。
その目は険しく、普段の彼からはあまり見えない表情であった。
「ああ、必要な事だ、筋ってものだからな、俺は俺の信念がある、あんたも俺の協力が必要なら頼みってのは聞いてもらいたい」
そう言って通話を終わる。
(まぁ、使える物は使わしてもらえないとな)
その2週間後、ミャンマー郊外で小さな孤児院、ボロボロな建物は何とか雨風が凌げるそんな建物であった。
割れたガラスに貼られた新聞紙、扉も年季が入っている、この孤児院の事務所と呼ばれている部屋、ボロボロソファーに隻腕の男が腰掛けている。
北岡兵衛、ミャンマーの暑さからタンクトップを着た身体から汗が溢れていた。
「確かに、返済が遅れてしまう事は悪く思うが、試合が中止になってしまってファイトマネーが入らないんだ」
北岡は、丁寧に事情を説明したが、説明を受けた男は、説明にたいしてどうでも良いといった感じで、タバコに火を付ける。
「それは、そっちの事情だ、こっちの土地の権利は俺が持っているんだ、その俺が一括で払ってもらうって言ってるのだ」
男は、ミスターインガー、地元を牛耳る金貸しで暴力を使い、財をなす男の通名である。
先日、無理な契約でこの孤児院の土地を手に入れたのだ。
「こんないい土地を貧乏人に使わせるのは勿体ない、一括で払えないなら、出て行ってもらうよ」
「そんな、じゃあ、私達はどこに住めば」
孤児院には、10を越える子供達がギリギリ生活をしている急に出て行けと言われても、住む場所もないのは明白だ。
北岡の隣に座る、園長は困った様子ですがりついたが、インガーは関係ないといって取り付けなかった。
インガーは期限を一週間と伝えその場を後にする、ワザとらしくタバコを地面にすてていくおまけをつけて。
北岡は頭を抱えたリングに立てばどんな相手でも、誇りを持って戦う、しかし、『お金』相手ではどうにもならない。
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