バベル II 

@nagaresasa

第1話 夏の日の2000

 クラブのカウンターに女性というには、まだ若い少女の様な幼さを見せる女が1人、手にカクテルを握り、それをぼんやりと眺めていた。

 酔っているわけでは無い、周りの騒がしい雰囲気をシャットダウンしている様子であった。


 金髪に染めた髪は根元が黒くなっており、白い上下のジャージといった格好は何処にでもいる田舎のヤンキーの様でもあったが、何か独特な魅力で誰にもなびかない猫の様な瞳を持っていた。


 その魅力に寄せられる様に、紫色の高級スーツ、そして強めにかけたオールバックに銀髪の男が声をかけた。

 歳は一回り離れているが、お互い関係ないといった様子だ。


 「もし1人なら、隣いいか」


 銀髪の男に声をかけられた猫の様な彼女は、悪戯な表情を見せて構わないといったジェスチャーを見せた。


 促される様に座る銀髪に、猫の子は、指を一つ立て忠告した。


 「でも、一つ約束して、私に対して何か奢ったりしないでよね、お酒でも何でも、ムカつくから」


 変わった女だと、銀髪は口元を緩めた。


 自分に近づく、近づいた女達は何かしら見返りを求める者であったからだ。


 「そうか、気をつけよう、俺の名前は」


 猫の子は、また指を立てた。


 「別に、名乗らないでいい、聞きたくないし、興味ないから、ただお酒を飲むなら、名前を知らなくても問題ないでしょ」


 「確かに、そうだな」


 そう言って、銀髪はグラスを猫の子とグラスを合わせる。

 銀髪の薬指には指輪が光っている。

 


 その2人に間に、強面の男が間に入る。


 

 「オイ、お前、お前だよ、クソガキ」


 銀髪の男に浅黒い巨体の男が声をかける。


 睨みつける巨体の男に対して、銀髪の男は、興味なく振り返る。

 「誰だ」


 「誰かとは、関係ない、お前、昨日俺の女にちょっかいをだしたな、最近、ここいらで好き勝手やってるみたいじゃないか」


 巨体の男は、銀髪の薬指に光る物を見て軽蔑の眼差しを見せる。


 「しかも、既婚者か」


 銀髪の男は鼻で笑う。

 「お前に関係あるのか、それとも羨ましいのか」


 巨体の男は、怒りに血が上り思わず、拳を振り下ろす。

 しかし、その拳は空を切り、変わりに銀髪の拳が顔面に繰り出されていた。

 男は、後方にたおれこんでいた。


 猫の子は、感心の表情を見せた。

 「へぇー、ケンカ強いんだ」


 銀髪の男は、拳をその彼女に見せる。

 「強いだけじゃない、金もある、天に愛された男前だ」


 その不遜な態度にも猫の子は、引くことなくより興味を惹いた。

 「でも、頭は悪そうだね、気に入った」

 「私の名前は、平野寧々(ねね)」


 女は寧々と名乗り、グラスを乾杯といった様子で上げる。


 銀髪は、店のスタッフに、横たわる男を片付ける様に目配せをし、座り直す。


 「寧々か、いい名前だ、俺の名前は我狼(がろう)、苗字はちょっと控えさせてもらおうかな」



 若き日の天上院我狼は、そう言って、寧々とグラスを合わせた。


 


 

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