未来の自分は今よりずっと幸せだから…

ちびまるフォイ

今は過去の憧れた未来のワンシーン

「金がねぇ……」


新生活がはじまり憧れの一人暮らし。


ひとり暮らしをはじめて気づいたのは、

実家で生活するよりもさまざまな出費があることだった。


そのうえ、飲み会などでお金を使うともはや自由に使えるお金なんてない。


バイトを重ねれば時間と体力が取られるので、

お金を手にしても今度はそれを使うチャンスがないときた。


「はあ……どうしよう……」


諦めまじりにスマホで楽そうなバイト情報を探していると広告が割り込んできた。



『未来フリマでお金をかせごう! ミラカリ!』



お金と稼ぐという単語にめっぽう弱く、

インストールをすませてアプリをすぐに起動してしまった。


指紋認証で自分を登録すると、出品候補のラインナップが画面にずらりと並ぶ。


「スニーカーにカバン……。未来の自分はずいぶんいろんなものを持ってるんだな」


高級な品々を前にためいきが出る。


「すごい、人脈とかもフリマに出せちゃうんだ」


今はとうてい得られない人脈も未来の自分ではゲットしているようで、

出品候補の人脈にはさまざまなものが並んでいた。


「未来だから影響ないとは思うけど……出品して大丈夫かなぁ」


タイムパラドックスが起きて地球が大爆発にならないか。

出品ボタンにしりごみしていると人脈カテゴリの一角で目が止まった。



>悪い女との人脈 \100,000



「人脈を売れば10万……。

 わ、悪い女みたいだし……これを売っても影響ないだろ。

 あっても縁が切れていいか」


世界崩壊のハルマゲドンが起きないかドキドキしながら出品を押した。

書いてはすぐにつき、アプリ経由であっさり10万手に入った。


「こ、こんなにあっさり……」


10万なんて大学終わりにびっちりバイト詰め込んでやっと手に入る大金。

それをこんな指先どうさひとつで手に入るなんて。


しかも影響があるのは未来の自分。

今の自分には何も影響がない。


「ミラカリ最高じゃん!!」


この日を境に自分の生活はがらりと変わった。


量産型陰キャだった自分は大学でも一目置かれる存在にはやがわり。


「すげぇ、それブランドのやつ!」


「まあ俺くらいのクラスになると、これくらい持っておかなくっちゃね」


大学生は人生で最も大人ぶりたくなるお年頃。

高級品をさりげなく身につけるだけで、男子間の扱いは大きく変わる。


授業の合間には自分の交友関係をおおっぴらにアピールするのも欠かさない。


「こないだ、〇〇区のバーで飲んでたら、△△と意気投合しちゃってさぁ~~」


「△△っていったら有名なユーチューバーだよ!」

「えーー! 私にも今度紹介して!」


「そうなの? 知らなかったなぁ。はっはっは」


金は人を引き寄せる力があるようで、

お金を派手につかえばつかうほど人はよってくる。


「で、次はどんな芸能人と会う予定なんだ!?」

「最新のブランドスニーカーも持ってるんだよね!?」


「あ、ああ……と、当然だろ……?」


「今度家に行ってい!?」


「はは……も、もちろん……」


憧れのキャンパスライフを手に入れ、大学カースト最頂点にのぼりつめると

今度はみんなの期待が重くのしかかってきた。


家につくと、やっと解放された気持ちになる。


「キラキラ大学生活送っている俺が、

 こんな貧乏ボロアパートで住んでるとやっぱりイメージ崩れるよな……」


再びミラカリを開く。

未来の自分が持っているあらゆるものをどんどん出品していく。


「まあどうせ未来だし……今には影響ないだろ」


さまざまな高級品を売り叩いて、タワーマンションに引っ越した。

家具なんかも良いものを揃えはじめるとお金が足りなくなる。


「意外と金かかるもんなんだな。ミラカリしとかないと」


追加でミラカリを使ってお金を作り出した。

だんだんとこの動作にもなれていた。


誰もが憧れる大学生を金で着飾っている日々も長く続いたある日のこと。

同じ授業を取っている人から紹介があった。


「私の友達で紹介したい人がいるんだけど、いいかな?」


「もちろん。何人でも紹介してよ」


出品すれば金になるから、と喉まででかかった言葉を飲み込んだ。

やってきたのは芸能人もびっくりの美人だった。


「大学であなたのことを聞いて、お友達になりたくて……///」


「なりましょう!!! 友達に!!!」


擬態していたがどうしても出てしまう非モテ特有のがっつきテンションで答えてしまった。

お友達になりたいとか、もはやプレ告白じゃないか。


大学でも目を引くほどの美人と連れ立って歩いていると、

ますます自分は雲の上の存在とあがめられるようで気持ちがいい。


もし、ミラカリを使っていなかったらこんな人生もなかったんだろう。


「はあ……幸せだ……」


この先、彼女とあゆむ幸せな未来を想像するだけで気分があがる。

夢うつつな自分をいつも彼女は現実に戻してくれる。


「ねぇ、私あのブランドバッグほしいな」


上目遣いでねだるその顔には誰もあらがえない。

断ることで自分が見切りつけられることも怖い。


「あ、あのバッグね……。ちょっと待ってね。

 ひい、ふう、みい、〇〇万円だからえっと……」


「ねえまだぁ? 私はやくほしいんだけど」


「も、もうちょっとで買い手がつくからっ……」


「おそい~~はやく~~」


バカ高いバッグを買うためにミラカリで出品を繰り返していく。

バッグの値段ぶんのお金を作るのにも苦労した。


「おまたせ! はい、バッグ変えたよ!」


「もういらない。トロトロやってたから欲しくなくなっちゃった」


「そ、そうだよね……ごめんね……あはは」


「こんな感じなら嫌いになっちゃうかも~~……」


「えええ!? そ、それはちょっと困る!!」


彼女がいないと自分の格がどれだけ下がるか。

維持費は高いものの得られるメリットには代えがたい。


次のデートの約束をすると、すぐにミラカリで大量出品をしはじめた。


「どうせ未来なんだ。何売ったって変わるもんか!!」


デートの現場で前のようにモタつくわけにはいかない。

軍資金はどんなに多くても困らない。


・未来の人脈  売却

・未来の所有物 売却

・未来の家   売却


「これも売っちゃえ!」


・未来の自分の臓器 売却


過去イチのお金を一気に手に入れられた。

これなら何をどう要求されてもスマートにこなせるだろう。


デート当日、待ち合わせに金ピカの服で待っていたが彼女はなかなか来ない。


「……おかしいなぁ。時間まちがったか?」


すると、およびではないガラ悪そうな男がやってくる。


「よお兄ちゃん、あんた名前は××か?」


「え、ええ?」


「最近はぶりがいいらしいじゃないか。ちょっとわけてくれよ」


「そ、そんな……」


この先の展開が読めたので慌ててUターンし猛ダッシュ。


「こら待ちやがれ!!」


背中からどすのきいた声が聞こえる。


「ひいい!! 捕まったらせっかく持ってきた全財産取られる!!」


後ろを振り返り、また前に向き直ったときだった。

まっすぐ突っ込んでくる車に跳ね飛ばされて意識を失った。



「……大丈夫ですか?」


次に目を覚ましたのは病院だった。


「俺は……車にはねられて……」


「記憶はあるようですね。あなたは車にはねられて1ヶ月目を覚まさなかったんですよ」


「お、俺を追ってきたやつは……!」


「あなたの事故を見て逃げていったそうです。

 そのあとで警察に捕まりましたよ。

 

 なんでも知り合いの女からあなたの資産状況をきいて狙ったとか」


「知り合いの女……」


「心当たりありませんか? あなたがお金を持っていると知っている人間」


「あっ」


真っ先に思い当たったのはあの美人だった。

すぐにスマホを見ると、なぜか連絡先も消えていて連絡が取れない。

それどころか残していた彼女の写真などの思い出も消えている。


「指示役の女も捕まったそうですよ。

 最初からあなたのお金が目当てだったそうです」


「そうですか……」


「それと、あなたが眠っている間に何人も面会へ来ていましたよ」


「えっ」


「人気者なんですね、今も面会室で待っていると思いますよ」


「ちょっと行ってきます!」


お金を作ってからみんな俺のお金目当てですり寄って来てるのかと思った。

でもちがう。最初のきっかけがなんであれ、できた友情は本物なんだ。


みんな俺の退院をずっと待っていたんだ。


「みんなおまたせ! 俺の退院を待っててくれたんだね!」


面会室に入ると、見ず知らずの人達がぎっしりと待っていた。



「ミラカリでお前の家を買ったんだ! 約束通り家をよこせ!」


「私はバッグをもらうはずよ! 早くして!」


「息子が手術なんです! 未来にした約束どおり臓器をゆずって!」



スマホに表示された今日の日付は、

かつて見た未来の日付になっていた。

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