護衛
オボロヅキは荒野に降り立った。その周囲を飛び回るメタルコメットは、援護射撃に努めている。眼前から迫るは、無数の戦闘機と一機の機龍だ。荒野の空では無数のレーザー光線が飛び交い、地上では二機の機龍が衝突し合う。
「こうしていつも戦っていると、人を殺すことに違和感を覚えなくなってきやがる。
「本当は死んだ方が良いんだろうな、オレみてぇな奴は。人を殺し過ぎて、もう後戻りも出来やしねぇ」
何やら彼は、軍に所属してから日が浅くないようだ。彼がふと遠方に目を遣れば、そこではオボロヅキが口から光線を放ち続けている。無論、孝之はその操縦士が
「翔太……アンタは今、どんな想いで戦ってるんだ? ここに来てから、まだ数日しか経ってねぇのに」
そんな感傷に浸りつつも、彼は敵陣の戦闘機と戦い続けた。その周囲でも、たくさんの子供たちがメタルコメットを操縦している。命を賭して戦う者は、孝之一人だけではない。
戦場の張り詰めた空気を噛みしめているのは、狐火軍だけではない。
「狐火の連中……相変わらず手ごわいな!」
「メル……絶対に死なないでよ! ウチらで遊園地に行くんだから!」
「来る日も来る日も、人の死ばかりが取り巻いてきやがる!」
敵軍の兵士たちもまた、年端もいかない子供たちだ。彼らもまた等しく、祖国に利用されている被害者である。一機、また一機と、彼らの乗り回す戦闘機が撃墜されていく。そして落とされた機体のうちの一つは、オボロヅキの巨躯に叩きつけられる。
「まずい……」
狼愛がそう呟いたのも束の間、オボロヅキは激しい爆発に包まれた。狼愛は間一髪でベイルアウトしたが、戦場で生身の体を出すことは自殺行為でもある。
「狼愛! どうして……」
この時になり、孝之は初めてその場に翔太がいないことを理解した。彼はすぐにメタルコメットを旋回させ、彼女の護衛に努める。しかし多勢に無勢では限界があり、狼愛は何発かのレーザー光線に被弾していく。その最中、敵陣の機龍は狐火軍の戦闘機に照準を合わせ、何発ものミサイルを発射する。次々と撃ち落とされるメタルコメットを前に指示を出すのは、狐火軍の大佐こと
「各自、すぐに撤退しろ! こちらの機龍がやられていては、勝ち目がない!」
彼はすぐにメタルコメットを方向転換させ、その場から逃げ出そうとする。その後に続き、生き残った機体は列を為して飛行する。ただ一人、孝之だけは戦場に残り、狼愛の救出を試みている。そんな彼に気づき、正和は声を荒げる。
「何をしている!
「オレは狼愛を死なせねぇ! 翔太はきっと、オレを信じてくれている!」
「その
通信機越しに、激しい舌戦が繰り広げられた。それでも孝之は、決して折れようとはしない。彼は不敵な笑みを浮かべ、正和に反論する。
「オレや翔太が戦わなきゃいけねぇ理由があるとすりゃ、可憐なお嬢様をお守りすることくれぇだろうよ」
「白金狼愛に感情はない! 死を苦しいと感じることもない! それでも奴を守りたいと願う執念は、一体どこから来ているのだ!」
「アンタにはわからねぇだろうよ、大佐!」
そう言い残した孝之は、頭からヘッドセットを外した。彼の耳にはもう、正和の声は届かない。
「……まあ良い。君が死んだ場合の責任も、杠葉翔太に背負わせるとしよう」
正和は孝之を置き去りにし、その場を後にした。
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