薄命戦記
やばくない奴
戦場の子供たち
戦場
とある荒野で、二機の機械の竜が戦っていた。その周囲には無数の戦闘機が飛び交い、レーザー光線を乱射している。戦闘機は次々と撃ち落とされ、数多の命が散っていく。
ここは戦場だ。目まぐるしい速さで銃弾とレーザーが飛び交うその場所には、瞬きをする余裕すらない。
「ちっ……我が軍の兵士が次々と!」
一機の戦闘機の中で、一人の男が叫んだ。彼が頭に装着しているヘッドフォンから、仲間の応答する声がする。
「所詮ICは消耗品だ。代わりはいくらでもある!」
何やら彼らは、ICと呼ばれる存在をこの戦争に利用しているようだ。しかし今この場にいる兵士たちは、次々と敵国の機体によって破壊されていく。このままでは彼らに勝算はないだろう。そこで茶髪の男が、軍に指示を出す。
「撤退だ! 各自、すぐにスカイネストに帰還するように!」
彼の命令に従い、機械の竜と戦闘機は一斉にその場を去った。彼らの向かう先は、宙に浮かぶ巨大な空母だ。
この光景を前に、敵国の兵士たちは次々と呟く。
「ふん……
「もはや連中に勝機はないだろう」
「この戦争……我々ヴァランガ帝国の勝利だな」
圧倒的な力の差を見せつけた彼らは、余裕を感じていた。
*
数日後、狐火国の住宅街に、無数の大型ヘリコプターが着陸した。そこから降りてきたのは、仮面を着用した者たちだ。彼らは街を練り歩き、たくさんの民家を訪ねていく。彼らの目的は、子供をさらうことだ。
「やめろ! 俺の息子が何をしたというんだ!」
「私の娘を返して!」
「やめて! 連れてかないで!」
事情を知らない大人たちが、必死に自分の子供を守ろうとする。しかし仮面の人物たちは麻酔銃を撃ち、眼前の善良な市民を眠らせていくのだ。彼らの仮面越しに、ボイスチェンジャーを通した声がする。
「全ては……祖国のため」
「お前たちの子供は皆、狐火を守るために生まれてきたのだ」
「命の価値は平等じゃない。今も昔もな!」
もはや彼らを止められる一般市民はいない。捕まった子供は目隠しをされ、次々と何機もの大型ヘリコプターの中に詰め込まれていく。
「お父さん! お母さん!」
「怖いよ!」
「助けて!」
そんな子供たちの叫びもむなしく、仮面の人物たちは依然として誘拐を繰り返していく。そして罪のない子供でいっぱいになった大型ヘリコプターは、無慈悲にも空の彼方へと消えていくのであった。
子供たちが連れ去られた先は、巨大な空母の艦内だった。彼らは皆、金属で出来た首輪のようなものを装着されている。仮面の集団に選ばれた子供たちは廊下を案内され、何台ものコックピットとVRの機材が用意された部屋へとたどり着いた。困惑する彼らを前にして、一人の男が声を張り上げる。
「各自、着席! これより、シミュレーションを開始する!」
それはあまりにも唐突な号令だった。当然、そんな彼に反発する者も現れる。
「ちょっと待てよ! ここはどこなんだ! 俺たちは一体、何に巻き込まれたっていうんだよ!」
一人の少年が叫んだ。直後、その場にいる子供は皆、一斉に苦しみ始めた。彼らの着けている鉄の首輪が電流を帯び、首に痣をつけていくのだ。その光景を前にして、男は言う。
「誰か一人でも私に逆らえば、君たちには連帯責任を負ってもらう。さあ、シミュレーションを始めろ」
少なくとも、今この場で彼に反抗することは賢明ではないだろう。子供たちは空いている席に次々と腰を降ろし、VRゴーグルを装着した。それからコックピットを操作しだす彼らを見て、男は呟く。
「やれやれ……この世代のICは、祖国を守れるだろうか」
狐火軍は今、昨今の戦争において劣勢だ。この国の未来は、軍に連れ去られた子供たちに託されている。
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