第9話 「やばい人にビビるアルティメットニート」(何こいつ)


「おのれ凡俗が……ヒューマンの貴様など、サラマンダーさえいなければ!!」

「あぁそうさ……俺は凡俗。Fランクの冒険者さ」


 全ての者が俺と魔王の一騎打ちを見守っている。


「この、落ちこぼれが! なんで貴様なんかが!」

「落ちこぼれ? そうさ、間違っちゃいない……」


 そして俺は手元に赤い魔法陣を起こす。


「俺は落ちこぼれで……! 最強だ!!」


 そしていつもの様にそう叫ぶ。


「ヒートLv1!!」



 ――ドッガァァァァァァァァァアン!!!



 土煙を上げて、魔王が俺の炎の中で灰になっていった。


「ふぅ……終わった」


 少しだけ疲れた。振り返ると、エリーちゃんが潤んだ瞳で俺に飛び付いて来た。


「うわっと……エリー、さん!?」

「すごいわ、すごいわケイン! あの魔王を倒したのよ! こんなに呆気なく! 貴方本当に世界最強のFランカーだわ!」

「ちょ、みんな見てるから……ッ」


 民達もまた喜び、手を打って歓声を上げた。


「ありがとうケイン!! ありがとう! お前は本当に世界最強だよ!」

「助かったのよ私達! あなたのおかげで!」


 たった一人のFランクの冒険者、そして落ちこぼれだった俺に。


 皆が俺を認めて、感謝していた。



 ――あぁこれだ。これが山田拓郎が心から望み、そして叶わなかった世界だったんだ。



 何だか俺の目頭も潤んで来た。すぐにレベルアップの方法を見つけなければ危ない(かもしれない)相手だったし。


「ケイン!」

「んっっ!! エリーさ……ッ!!」


 俺の唇に暖かい物が触れていた。


 この暖かい物はそう、夢にまで見た女の子の唇だ。しかも絶世のエルフ美少女と……。

 

「ひゅーひゅー! お熱いねー!!」

「お似合いだよお二人!」

「ちっ悔しいが、お前にゃ敵わねぇか……」


 頬を赤らめたエリーちゃんは、めちゃくちゃ可愛かった。


「ケイン……私、ずっとずっと貴方の事が……」


 そしてこの世の悪夢が終わったその時だけは彼女も大胆になって、みんなが見守る中で、もう一度俺と唇を合わせる。


「うへっw……くっく……」

「どうしたのケイン?」

「いや、何でもないよ? エリーちゃん……w」





 ――――チョッッッロwwwww!!





 これは落ちたな、完璧にw

 キザな台詞に加えて、熱い戦闘シーンまで演じた甲斐があったというものだw


 山田拓郎の時には手も出せなかった美少女が、今の俺には簡単に手に入る。


 ――欲しい物はぜーんぶ俺の物になる……勝ち組の今の俺にならwww



 ぷりぷりの若い体……良い匂い……柔らかい肌……

 今夜この胸も、尻も唇も心も、ぜーんぶっwww♡



 くふふ……美少女エルフいっただきぃwww


 俺は告白の返事とばかりに、潤んだ瞳をする彼女を抱き寄せながら、唇を近付けていく。


「んちゅぅ〜〜〜ww」








 ――じゃり。


 もう何も阻む者の無い筈だった俺達の元に、近寄って来る者がいた。

 誓いのキッスを中断して、俺達は彼を見つめる。

 全く良い所で邪魔しやがって……


 ――え? この人って確か……


 真っ黒い神父服(こういうのは確かスータンって服だったと思う)に胸から銀の十字をぶら下げている。

 その神父様が、いつもの様にニコニコと笑いながら、俺達の元に近寄って来る。


 ――なんか、とんでも無い物を引き摺って!


「えっと……神父様? その、今引き摺っている、人を貼り付けられる位に巨大な十字架は一体……」


 神父は2メートル程もある巨大な銀の十字架を、音を立てて引き摺っている。


「あの……神父様? やっぱり貴方って黒幕だったり?」

「……」


 神父は何も言わずに俺の前に歩み出ながら、スッと笑顔を消して細い瞳になる。


「あの、だから神父様? それは……なんなんですかねぇ?」


 黙り込んでいた神父は急に冷たい表情に変わり、その巨大な十字架を逆さにして地に突き立てた。

 そして勢い良く叫び始めた。


「エデンに入り込む不遜な輩ぁ……神の作りし庭園に、土足で踏み込む愚か者ぉ……。ゲスがぁ、ゲスがぁ……このッゲス野郎があ!! 今、主の御名の元に! 断罪執行! 楽園追放! 慈悲も無く!! たぁぁだロンギヌスの槍の様に!! 神の胸を貫いた!! ぁぁあの聖槍の様にィィ!!」



 泣きまくった神父が、今度は獣の様に叫び出した。



「処刑を開始する――――チィツジョの為ニィィイイッッ!!!」

「うわわわ……」

「これは貴様の墓標だぁ……。きたねぇきたねぇクソ蛇がぁ――ッ!!」


 そのおじさんがもの凄い巻き舌で叫ぶと、なんか空気がビリビリと震えた。


 ただなんかヤバイ人が来たなって、俺は思った。


 でも多分大丈夫だろう。


 俺チートだしw。

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