第11話 ガレット公爵邸のガーデンパーティ

 ガレット公爵家で過ごすのは一週間。公爵邸ではその間に毎年恒例の夏のガーデンパーティーが催され、ヌガティーヌのクラスメイトはその手伝いをすることになった。


 七賢家門のうち王家を抜いた六賢の家長が公爵邸を訪れ、予想以上の規模に平民学生たちは顔を引きつらせている。あたしも緊張してるフリをしながら、貴族相手に給仕をしつつ使用人やパーティー参加者の話を盗み聞きして情報を集めた。


 ガレット公爵夫人付きの侍女の話だと、パーティーの夜は必ず六賢家門の家長だけで夜通し酒盛りするらしい。場所は普段立ち入り禁止となってる地下三階の部屋。


 そこに秘宝が隠されているとは思えないけれど、何かしらの手がかりはありそうだった。侵入するなら酒盛りの後だ。


 六賢の一人アマンディーヌ伯爵は庭園でシャンパングラスを傾けていた。


 アマンディーヌ家はドワーフと親交があり、秘宝に関連する「鍵」はドワーフが作っている。七賢はその鍵をアマンディーヌ伯爵から仕入れ、それぞれ独自の魔法をかけているらしい。アマンディーヌ伯爵は六賢の中でのキーマン。


 彼のグラスが空になり、あたしがシャンパンボトルを手に歩き出そうとした時、


「久しぶりだね」


 不意に声をかけられ振り返ると、護衛を連れた金髪碧眼キラキラ男子が立っていた。お忍び風の地味な格好だけど、強力な王族オーラで近くの貴族たちがヒソヒソと囁きあう。あたしは咄嗟に頭を下げ、もっさり前髪で顔を隠した。


 ガレット公爵邸に来てもう五日目。秘宝のことばかり考えて王太子のことなんてすっかり忘れていた。


「まさか殿下がいらっしゃるとは思いませんでした」


「王都で君を心配してる人がいたからわたしが代わりに様子を見に来たんだ。それにしても、君が給仕する必要はないだろう?」


 あたしを心配してる人というのはマカロン教主か学院長か、それとも国王か。カヌレ王太子が余計なことを口走らないうちにどうやって逃げようかと考えていたら、ちょうど良くタルトが通りかかった――いや、もしかしたら最初から見ていたのかもしれない。


「あっ、殿下も招待されてらしたんですね」


 イケメン二人が揃って周りの注目度はさらにアップ。あたしはそ~っとタルトの後ろに移動する。


「予定があって一度断ったのだが都合がついたから来てみたんだ。まさか本当に君がいるとは」


「あれ、ヌガティーヌ様からお聞きになりませんでしたか?」


「聞いてはいたが……」


 モゴモゴと言葉を濁す王太子を横目に、タルトは「ヌガティーヌさまぁ~」と庭園の遥か彼方にいる公爵令嬢に向かって大きく手を振った。


「おい、待て!」


 王太子は慌てて止めようとしたけれど、周囲の視線に気づいて引きつった笑みを浮かべる。ヌガティーヌは婚約者の突然の来訪に気づくと、いそいそとこっちに向かって歩いて来た。


「ミエル、あっちのお客様がシャンパンを所望だよ」


 タルトがあたしの手からシャンパンボトルを奪い、反対の手であたしの手を握る。王太子は引き止めたそうだったけど、あたしとタルトは「失礼します」と有無を言わさずその場を辞した。


「王太子が注目されてるうちに」


 タルトがボソッとあたしの耳元で囁く。どうやら王太子の訪問も作戦のうちだったようだ。


 建物の中に入ると最初に出くわした使用人にシャンパンボトルを渡し、あたしたちはそのまま廊下を奥へと進む。


「タルト、もしかして地下に行くつもり?」


「その口ぶりだとミエルも地下のあの部屋が怪しいって思ってるんだよね。それより、やっとタメ口で話してくれてうれしい」


 暢気なことを口にして、タルトはニっと笑顔を寄越す。悪びれない態度が憎らしい。


「どうしてあたしを巻き込むの? あなたはあなたで勝手にやったらいいじゃない」


 こんな発言、自分が泥棒だと認めるようなものだけど、これ以上タルトに振り回されるわけにいかなかった。


「言ったよね。一人より二人で踊った方が楽しいって」


 繋がれた手を振り払うこともできず、あたしはタルトに導かれるまま地下への階段を下りていった。


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