第4話 ネシェール・ラムラ・ホモ

「アララト山の墜落した船から発見された人骨ですが、あれは驚くべき事にネシェール・ラムラ・ホモ人のようです。もしかするとネシェール・ラムラ・ホモと我々ホモサピエンスは一時期同時に生存していた人類かもしれません。早い時期にネシェール・ラムラ・ホモがホモサピエンスに駆逐されたというのは間違いかもしれません。何しろ彼らは我々よりも脳の容量は大きかったのです。あるいは我々ホモサピエンスが彼らに生かされた、もっと言えば彼らによって育てられた、と言えるかもしれません」

そう言いつつ彼はさらに悪い予想を持っていた。

「ホモサピエンスはネシェール・ラムラ・ホモによって造られた生物兵器ではないか、対異星人用の兵士用生物ではないか」と。神は己の姿に似せて人を造った、聖書の中にある記述である。聖書自体がその編纂者の思惑で構成された書物であり、決して神の指示によって造られたわけではない。聖書への編纂から外された外典と呼ばれる文章も数多く存在する。それは神の啓示で外されたわけではない。編纂者の意図に寄るところが大きい。

つまり、編纂者の都合で聖書は編集され、その編集の理由を「神の意志」として、全ての責任を神に押しつけたのだ。故に、聖書にのった文章の選択は神の意志が反映された物だという話は極めて眉唾物であり、編纂者たる教会幹部の都合を想像せざるをえない。

「仮に我々ホモサピエンスが生物兵器として想像されたのであれば、火星人に打ち勝つための何らかの能力が付与されているはずだ。それが何なのかを突き止めることが出来れば

勝利への確率を上げることは出来る。それが体力に関する物なのか、知性なのか、それとも全く別の物なのか。ネシェール・ラムラ・ホモが存在しない今、奴らに勝利すれば火星の権益はホモサピエンスのものだ。もっともその後の権益の分配で国家同士の争いが起きる可能性は高いが」

彼はそういう推論の上に推論を重ねた結論を出した。学問の上では推論を重ねることは御法度だが、外交や政治、軍事の世界ではありうる推論を重ねて相手の出方を見切ることは相手を出し抜くためには重要な事である。

太平洋戦争、大東亜戦争、第二次世界大戦。呼び名は様々だが、その本質は変わらない日本の敗北した戦争の後、国の復興と共に新たなる戦争に備えなければならない立場にあった明石は、未来を思い次に打つべき手を考え始めていた。

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