29 誘
――大箱で買うと余るなあ……。
――でも、貰っては帰らないよ。
――ん、もう、訊く前に答えないでよ。
――波乱の原因は作らないに限るからな。
――そんなことはわかってるわよ。ただね……。
――ただ?
――当てなさいよ。せっかくだから……。
――じゃ、言うけど、そういう嘘っぽい会話をしたかったのよ、だろ。おそらく……。
――半分正解。答はね、そういう答のわかった会話をあなたとしたかったのよ、だわ。
元カレが湯船の中に身を沈め、本で読んだから一遍やってみたい、とわたしを誘う。それで元カレが膝を屈折させて座った身体の前面にわたしの身体の後面を乗せる形で湯船に沈む。すると、わたしの胸に元カレの両手が伸びて、くすぐったい。それと同時に、わたしのお尻の下にあるモノも、すぐにずううんと伸びてくる。それから、お湯の中だから、長くは無理だから、とわたしの中に入って来る。そんなことは以前元カレから一度もされたことがなかったので、わたしは瞬時惑ったが、不思議とにゅるりと抗いも難儀も興奮もなく元カレの性器がわたしの性器に収まってしまう。それから緩い動きがあって、あら、まあ、どうしましょう、と焦ったが、元カレの性器はそれ以上怒張することも、また未練を残すこともなくすぐに力をなくし、わたし性器から抜け落ちる。でも基本形はそのままだ。元カレがお湯となり、お風呂と変わり、香りとなって、優しくわたしを包み込む。わたしはそこに、やはりセックスでは得られない形の愛を感じる。
あははは……。
子供っぽいスキンシップだと笑う人は笑えばいい。いくら笑われたって、わたしの得ているこの感覚は失われない。気持ちの中からも抜け落ちない。いわゆるセックスで得られる快感は突き詰めればその人独りだけのものだろう。相手にいい気持ちになって貰おうとして動くときには違うけれど、自分が高まったときにはそうなのだ。さらに本能が伴うからか、気持ちの上での同一感が損なわれる。
でも……。
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