質疑応答
まるで、完全変態を遂げている最中のさなぎを目撃したかのような衝撃が1人と1匹の間を駆け抜けた後、世にも奇妙な1人と1匹の質疑応答が開始された。
まず、微妙な空気を払拭するかのように、あわびがぴんくもこもこに話しかけた。
「あの、、、もしかしてなんですが、私の話をご理解頂けているという認識でよろしいのでしょうか?」
『お ん』
「あはは、凄いですね。そうだ。では、お名前をお聞きしても?」
『ま あ ま る』
「まあまるさん、と仰るんですか。私は、あわびと申します。恐らく、まあまるさんがこちらにいらっしゃる間は、同居人ということになると思います。私に、着いてきて下さったという認識でよろしかったのでしょうか?」
『あ わ び』
『せ や』
『お ま え が え え』
どうやら、名前も覚えてくれた上に、あわびとの同居もで喜んでくれているらしい。
『ピンク色の綿毛のようなふわふわに包まれた怪物に告白される』なんて想像だにすらしなかったシチュエーションだが、そのおさげのようなもこもこした耳がぴょこぴょこ跳ねているのを見て、あわびもなんだか嬉しくなった。
さらに、その能力は未知数ながら言わずもがなの怪物を飼育する許可が出る人間は、いくら怪物の巣窟と恐れられる日本軍といえどその数は限られてくる。
ぴんくもこもこ、改めまあまるさんが同意してくれているなら自分が面倒を見られることはほぼ確定である。
その事実を再認識して、少し安堵したあわびは、その喜びそのままに再びまあまるさんに話しかけた。
「よかった。それを聞いて安心しました。恐らく、問題なく上の許可も降りるでしょう。今、私の部下がその確認と報告に行ってくれています。それまで、そうですね。何かなさりたいことはありますか?」
『め し』
口元に浮かぶその文字をみて、あわびも自分が空腹であることを自覚した。
と、同時にまあまるさんのどこにあるか行方不明なお腹が、
『くいっ』
と可愛らしく鳴き声を上げた。
どうやら、相当お腹を空かせているらしい。それを確認したあわびは、まあまるさんがたむろする執務机の横に設置してある冷蔵庫の中から、常備してある数の子を数本取り出し、まあまるさんの口元にそっと差し出した。
「どうぞ。これは、私の大好きな数の子という食べ物です。お口に合えばよろしいのですが...」
そう、不安混じり、さりとて何かを期待したようなあわびの目を覗きながら、
『う ま そ う』
という形に、その在り方を変えた口を開き、少しずつ齧り始めた。
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