天邪鬼に祝福を

砂上楼閣

第1話

4月1日を四月一日と漢字で書くと、わたぬきって読む。


いきなりなんだって?


特に意味はないよ。


4月1日=エイプリルフールって考えしかない、どんな嘘を付くかしか考えてない人に水を差したかっただけだから。


エイプリルフールは四月馬鹿なんて言われ方もするけど、4月1日になった途端に適当な嘘をついて回る馬鹿を見てると愚かで馬鹿だな、とは思う。


嘘は嫌い。


エイプリルフールだから、なんて免罪符にもならない。


面白半分でついてるんだろうけど、その嘘は簡単に心をズタズタにするんだってことに、いい加減気付くべきだ。


そんな事を、4月1日に、放課後に人気のない体育館裏に、気になる子からの手紙で呼び出された私は思う。


「……ねぇ、私の事、どう思ってる?」


聞いておいて不安げな表情を浮かべるあなたは、本当に卑怯だと思う。


そんなまるで、勘違いして下さいって態度で、台詞で、私の事を騙そうとしてるんだから。


まさか本人が来るとは思ってなかった。


クラスの誰かが、ぼっちな私を騙して笑いものにしようと嘘で呼び出したんだと思ってたから。


これなら、馬鹿笑いするクラスメートたちに囲まれて、笑いものにされた方がましだった。


どこかで隠れて笑いを噛み殺しているであろうクラスメートたちを、そして何よりあなたの事を恨んだ。


「別に、なんとも思ってない」


だから私も嘘をつく。


私の気持ちも知らないで、そんな思わせぶりなことを、嘘で私を騙そうとするんだから。


嘘は嫌い。


だけど、私は嘘をつく。


自分が傷付かないために、自分が嫌いなことだってする。


つくづく人は、私は愚かだなって思う。


「そっ、か…」


なんとも思ってないと言われて、傷付いたように俯くあなたを見ていると胸が痛む。


「私はね、ーーさんのこと、好き」


意を決して、まさにそんな雰囲気でそんなことを言ってきた。


あなたにだけは、その言葉を言われたくなかった。


嘘で、いや、嘘でも言われたくなかった。


今日この日、この瞬間には。


その場から逃げ出したいのに、口からは勝手に言葉が出てきた。


「……やっぱり、嫌い。ーーさんのこと、大っ嫌い」


言ってしまった。


傷付けたくなんてなかったのに。


コミュ障で、いつもおどおどしていて、自分の意見なんて言ったことなんかほとんどない。


いつも人の顔色ばかり窺っていて、いざ話そうとしても、どもってしまって恥ずかしい思いばかりしてきた。


そんなだから、いつも俯いて、長い前髪で目元を隠して、存在感を消して生きてきたのに。


前髪越しに、あなたのことを見続けてきたのに。


私はあなたに言ってしまった。


「一人でいたいのに、いつも話しかけられて迷惑だった」


嘘だ。


唯一私に話しかけてくれるあなたが、どれだけ私の心に救いをもたらしたか。


「自分勝手だし、距離感考えないし、ほんとそういうところが嫌いだった」


嘘だ。


自由気ままで、いて欲しい時にいてくれて、大好きだった。


「相手をするのも疲れるし、仲がいいと思われるのも嫌だった」


嘘だ。


でも、私なんかの相手をしていてクラスからあなたが浮いてしまわないか、それがいつも不安だった。


「諦めて欲しくて無視してるのに、そんな私のことも無視して話しかけてきて、馬鹿じゃないかって思ってた」


嘘だ。


せっかく話しかけてくれているのに、なんて返したらいいかいつも迷ってしまって、結局返せなかっただけ。


「ーーーが嫌い」


嘘だ。


「ーーーで嫌い」


嘘だ。


「ーーーは嫌い」


嘘だ。


嘘だ。


嘘だ。


「……そっか」


君の顔が見れない。


なんで、こんなあなたを傷付ける言葉ばかり、嘘ばかりがすらすらと出てくるんだろう。


「……ごめんね」


まだ、隠れてる人たちは出てこないの?


もしかして、こんなはずじゃなかったって、出てこれないの?


「そんなに、嫌だったなんて、知らなかった…」


早く出てきてよ。


お願いだから。


「ごめんね…。迷惑だったよね…」


辺りを見渡しても、誰もいない。


隠れられそうな所にも、人の気配は、なかった。


「本当に、ごめん、ね」


嘘だ…。


立ち去ろうとするあなた。


その目に涙が浮かんでいるのを見て、とんでもない勘違いをしていることに、ようやく気付いた。


「待って!」


初めてこんな大声を出したかもしれない。


無意識に踏み出して、あなたの腕を掴んでいた。


初めてかもしれない、いつも諦めていた私が、一歩踏み出して、何かを掴んだのは。


「全部、全部嘘なの!私は……!」


私は叫ぶように、これまで溜め込んできた気持ちを言葉にした。


どれだけあなたのことを見ていたか。


どれほどあなたのことを想っているのか。


どれくらいあなたのことを大好きなのか。


息の続く限り、言葉の限りにあなたへの想いを吐き出し続けた。


エイプリルフールの嘘が許されるのは午前中だけ。


もう、今は放課後だ。


とんでもない嘘で、あなたを傷付けた。


きっと私も許されは…


「もう……嘘つき……」


ああ、私は本当に嘘が嫌い。


私は私が嫌い。


だけど、あなたの事は心の底から……

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