拗らせ彼女のドキドキ青春

@Shatori

第1話

 朝。それは世界を照らす恵みの光。


 けど私、桂木美鈴かつらぎみすずはそんな朝をありがたくなんて思ったことはない! 

 何故って? こんっなにも温かくてフカフカなお布団から出て学校に行かないといけないから!!!! 凄く憂鬱。あまりにも憂鬱。


 でも仕方ないから布団から出て身支度をする。顔を洗って、歯をシャカシャカ磨く。サラサラで黒い髪を梳かして、サイドテールにまとめる。この髪は私の自慢。小さい頃から親や、友達が褒めてくれる、自慢の髪。その頃からずっとサイドテールにしていることもあって、『桂木美鈴といえば、黒髪サイドテール』と言われるほど。


 朝食のトーストを急いで食べ、2階にある自室に戻り制服に着替える。昨夜まとめておいた荷物を確認。忘れ物は……0!


 鞄を持っていざ出発! ………っとその前に。玄関前にある全身鏡で最期の身だしなみチェック。――うん! 今日も私は可愛い!!!

 勢いよく玄関を開けながら、キッチンにいるママに聞こえるように大きな声で、


「いってきます!!!!」



 外に出ると、同じタイミングで隣の家の扉も開かれる。彼は幼稚園のころからの幼馴染み、穂見マナトほのみまなと君。毛先を遊ばせて、イケてる高校生を演出してる姿を見ると、精一杯頑張ってて可愛く思えてくる。実際可愛いんだけど。

 時間に余裕があるのに急いでトーストを食べた理由がこれ。彼がこの時間に家を出るから。家が隣な事をフルに利用して、さりげなく一緒に登校しているのだ。私って天才!



「おはよう! 今日も寝癖ついてるよ~」

「違うわ! ワックス付けてるんじゃ。似合ってない……?」

「ううん、そんなことないよ。似合ってる。かっこいいじゃん」

「わかりやすいお世辞だね~。でもありがとう」


 さりげなく本音を言ってみるけど、幼馴染み特有の距離感で流されてしまう。悲しい。ほんとにかっこいいと思ってるんだよ?

 登校中は他愛もない話で盛り上がる。昨日あったこと、今日の授業でするであろう小テストのこと。こうした時間も幸せに感じる。


(あぁ…、私今、青春してるんだぁ………)



 ◇◇◇


「おっはよ~~~!!!!!!」


 元気よく教室に入っていく。朝起きるのは憂鬱だけど、学校自体は楽しくて好きだ。挨拶を返してくれる、気の合う友達もいる。授業も楽しい。最高の学校だ。マナト君もいるしね…。


「ところでさ、みすず~」


 荷物を整理している私にそう呼びかけるのは、上石沙月かみいしさつきちゃん。席が後ろだったこともあってすぐに仲良くなった。


「ん~?」

「いつになったら穂見君に告白するの~?」

「はッ⁉ なっななななにを言い出してのかね君は」

「口調どした~? もしかして、ばれてないとでも思ってるのかにゃ? 仲良くしてたらすぐにわかるぞ」

「嘘……」

「チラチラ目で追ってるし、穂見君と話してるときに幸せオーラ出てるし」

「あばばばばばばば」

「ま、本人にばれてないからいいんじゃない?」

「良くないよ!」


 全く、どの辺が良いのか。


「で、いつ告白するの?」

「しないよ?」「なんで」


 食い気味で質問してくる。グイグイくるなぁ……。


「だ、だって……今の関係が崩れそうで怖くて」

「日和んなよそこでぇ! 幼稚園の頃から一緒だったんでしょ? 仲良かったんでしょ? んな事一つで関係性が崩れるか!!」

「ひぃぃぃ……」


 怖い、怖いです。関係性が崩れる云々より、今は目の前の沙月ちゃんが怖いです!


「ずっとずっとどうせウジウジしてたんだろ? いい加減覚悟決めんしゃい」

「覚悟決めろって…」

「今日告白しな」「え⁉」

「放課後、穂見君を屋上に向かわせるから、そこでしな」「え⁉」


 え~~~~~~~⁉⁉⁉⁉



 ◇◇◇

 ~放課後~


「なんか上石さんに呼び出されたんだけど、みっちゃんなんか知らない?」

「い、いや~なんだろな~…」


 因みに「みっちゃん」とは私のこと。マナト君は幼稚園の頃から私をみっちゃんと呼ぶ。高校生にもなってそう呼ばれるのは少し恥ずかしいけど、特別感あって嬉しい気持ちもある。

 今の状況を説明すると、私とマナト君は、沙月ちゃんの思惑通り屋上にいた。私は無理矢理ここ屋上で待機させられ、マナト君は沙月ちゃんに「屋上にいけ」と言われたそうだ脅されたようだ。さ~て、どうしよっかなぁ~~(汗)

 くっ……。ええい、ままよ! もうどうにでもなれ!!!!


「マナト君」

「ん?」

「実はね、言いたいことがあって沙月ちゃんに呼んで貰ったんだ」

「あぁそういう。んで、言いたいこととは?」

「えっ、その……ですね」


 やっば…、心臓がもたねぇ…。触らずともドキドキ、バクバクが伝わってくる。今にも破裂しそう。顔もあっつい…。腕で汗を拭ってみるけど汗なんて出てない。ああダメだ、関係ないことで頭が埋め尽くされる。言うぞ、今言うぞ、絶対言うぞ、ほら言うぞ!


「マナト君」

「ん?」


 大きく深呼吸する。体の熱を冷ますように。私は出来ると唱えながら。ゆっくりと。

 彼の目をまっすぐ視る。大丈夫だ。言える!!


「私ね、あなたのことが……」「う、うん」


「…フゥゥ………、すき――……やき。そう! わたしマ、マナト君とすき焼きがたべたいなぁ…」


 もーーーーーーー!!!!!!!!!!!!! ふざけんなよ~~~???????

 Q.なんでそこで路線変更する? A,恥ずかしいから!!!

 言ってることむちゃくちゃじゃねぇか。なんだよ大事な話がすき焼き食べたいって。屋上に呼んでまでする話かよ。


「……」


 あぁほらマナト君固まっちゃった。そりゃそうなるよねごめんなさい。


「いいよ」

「へ?」


 へ?


「ちょうど僕もお腹すいてたから、一緒に食べにいこ」「あっはい」

「帰り道にないから寄り道になっちゃうけど、いいよね?」

「それは、はいもちろん」

「よし! 行こっか」


(どうしてこうなった???????????)


 さりげなく手をつないで移動する私たち。せっかくの機会なのに、頭がいっぱいいっぱいで堪能できなかった。気がつくと、私はマナト君と同じ鍋をつついて食べていた。う~~ん、すき焼き美味しい!



 こうして、私の人生初めての告白は失敗に終わった。


 ……あれ、待って!!! すき焼きを同じ鍋をつついたって事は実質間接キス⁉

 ――…あ、ダメだ。恥ずかしくて体が爆発しちゃう。考えるのやめよ。

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