piece3 サプライズパーティー前日
第84話 彩奈と悠里ママは、お友だち
「彩奈ちゃん、久しぶりね!」
土曜日。いよいよサプライズの前日だ。
クラッカーなどのパーティーグッズを買い込み、悠里宅へ訪れた彩奈。
悠里の母は、玄関まで出てきて迎えた。
ウェーブのかかったボブヘアに、悠里と似た大きな瞳。
母は娘の親友を見つめ、柔らかな微笑みを浮かべる。
「悠里ママ!お久しぶりです!!」
抱きつかんばかりの勢いで、彩奈も喜んでいる。
そんな2人の様子に、思わず悠里は笑ってしまった。
和気藹々とリビングに入ると、母が紅茶と手作りのベイクドチーズケーキを出してくれた。
「わあ!悠里ママのケーキ、久しぶりだあ」
「いただきます!」
彩奈と悠里は早速ケーキを頬張り、舌鼓を打つ。
娘たちの様子を、母はニコニコと見守る。
その優しい笑顔は、悠里の笑い方によく似ていた。
「いつも悠里と仲良くしてくれて、本当にありがとう」
母は彩奈に向かい、嬉しそうに言った。
「いえいえ、こちらこそ! 悠里には本当にお世話になって、楽しませてもらってます!」
「な、何それ」
笑顔の彩奈に、思わず悠里も笑いながら彼女の腕を叩いた。
「悠里も、いつも楽しそうに、彩奈ちゃんの話をしてくれるの」
コロコロと笑い、母は頷いた。
「私や主人が家を空けることが多くて、悠里には苦労させてるから……本当に彩奈ちゃんには、感謝してるわ」
「そんなそんな」
彩奈は明るい笑顔を浮かべる。
「悠里、本当にいい子だから、クラスでも人気で、皆んなに可愛がられてますよ! そ、れ、に!悠里には、めちゃめちゃカッコよ……」
「彩奈ー!」
すんでのところで、悠里は彩奈の口を塞ぐ。
さすがに、母親の前で剛士のことを言われるのは恥ずかしかった。
悠里は強引に話題を逸らす。
「お母さん! ところで、時間大丈夫?」
「あら、もうこんな時間?」
母が腕時計を確認し、目を丸くする。
驚いたときに、パチリと瞬く大きな目も、悠里にそっくりだ。
「あれ? 悠里ママ、もしかしてお仕事ですか?」
彩奈が2人を見比べながら、問いかける。
母が、すまなそうに笑った。
「ええ。日曜日に地方で大事な催し物があってね。私たちは、準備のために前乗りすることになっているの」
「わあ、相変わらずお忙しいんですね」
「本当は、私も朝から行くはずだったんだけどね、」
悪戯っぽく母は笑う。
「どうしても、今日は彩奈ちゃんに会いたくて、主人だけ先に行かせちゃった」
彩奈が、嬉しそうに歓声を上げた。
「私も、久しぶりに悠里ママに会えて嬉しいです!」
まるで友だち同士のような2人に、また悠里は笑いを誘われてしまう。
母は、もう少しお喋りしたかったわと言いながらも、てきぱきと出かける準備を整える。
ピシッとスーツを着こなした母は、娘の悠里から見ても、カッコよく、美しい女性だった。
「明日は、お友だちのお誕生日パーティーなのよね?」
にっこりと母は微笑んだ。
「楽しんでね!」
「はい! 素敵なお家、お借りします!」
彩奈が笑顔でお辞儀をするのを見て、母が笑いながら応える。
「ホームパーティーがしやすいように設計したお家だから、嬉しいわ。たくさん使ってちょうだいね」
「ありがとうございます!」
彩奈が楽しげに赤メガネの奥の目を輝かせた。
母は彩奈に微笑みかけると、悠里に向き直り、悪戯っぽく首を傾げた。
「ボーイフレンド?」
たちまち悠里の顔が林檎のように色づいてしまう。
母が、そして彩奈が笑い出した。
「悠里ママ、鋭い!」
彩奈の声に母は微笑んだ。
「この1週間、遅い時間までクッキーの練習をしていたり、ずいぶん張り切っていたんだもの」
「やだぁ、悠里ったら! そんなに!?」
彩奈が、ケラケラと笑う。
「お、お母さん……」
「ねえ、悠里?」
母が柔らかく悠里の頭を撫でる。
「今度ぜひ、お母さんにも紹介してね」
お父さんは泣いちゃうかも知れないけど、と母は笑う。
何かというと、戯けたように泣きマネをする父を思い出し、悠里も笑ってしまった。
母は、悠里と彩奈に明るい笑顔を向けると、手を振って出かけていった。
「じゃあ、準備がんばってね。パーティー、うまくいきますように!」
「はーい!悠里ママ、行ってらっしゃい!パパさんにも、よろしくお伝えください!」
「ありがと!お母さん、行ってらっしゃい」
娘たち2人は、玄関まで追いかけ、優しい母を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます