第2話 クローバー
舗装された道の横には、所々に三つ葉のクローバーの群衆が生えている。
そのなかに、四つ葉のクローバがないか、なんとなく目で探してしまう。目についたクローバの葉が四つに見え、思わずしゃがんでみてみると三つ葉のクローバーがただ重なっているだけだった。
そんな簡単に見つかるわけないよな、とそのまま手を動かし四葉のクローバーを探す。
青臭いクローバーの匂いと、四葉を探していた手の動作が絡み合い、脳の奥にしまっていた小さな棚がひらく。小さい頃の私の思い出。
幸運を手に入れようと、無邪気に四つ葉のクローバー探しをしていたあの頃の甲高い声が、脳内に響きわたる。
四つ葉は幸運。五つ葉は不幸になる。どうしてか、私が育った地域ではそう言われていた。クローバー探しが学年ないで流行り、筆箱の中にはみんなクローバーを入れていた。クローバーの個数が言わば学校でのステータスになっていた。
その日も皆で大きな広場に行き、四葉のクローバーを探していた。目線の先には葉っぱがいっぱいのクローバーがあって、私は四葉を見つけたと思った。けれど、手にしたクローバーは、数えてみると葉っぱが五枚あった。
どうしても、不幸になりたくなかった小さなかわいい私は、五つ葉の葉を一枚ちぎった。そして「四つ葉見つけた!」と、私は声高らかに発した。おんなのこたちは一斉に私の足下に駆け集まった。四つ葉の近くには、四つ葉があると言われており、お零れをもらおうと皆必死だった。学年の女王になるにはクローバーを持つことが必須だった。
決まって、その中の一人は、探すことをしない。ずっと「いいな。いいな。私も欲しいな。」と、うわごとのように繰り返し、私にまとわりつく。普通なら、そんな人にはただただ自慢をするだけだ。いいでしょこのクローバー。これで私もう五こめなんだ。そんなふうに。
でも、やさしくてかわいい私は、笑顔でその女の子に言ったのだ。
「これ、あげる」と。
一枚ひきちぎられた、元五つ葉の四つ葉のクローバーは、汗がべったりとひっついた女の子の手の平に吸い込まれていった。
どうしてだか、その時の私は、馬鹿らしいという思いがふつふつと湧き上がってきた。クローバーで学校での地位が変わるとか全く馬鹿らしい。私だけ夢の魔法がパチンと解けてしまったみたいだ。私は再びクローバーを探すことはせず、ひたすら足下で一生懸命に四つ葉を探す女の子たちの後頭部を眺めていた。緑の上で蠢く黒い頭。まるで蟻みたいにクローバーの上を這っている。
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