星と朝は言霊で

汐 冬樹

 もう一度またもう一度

~裏路地~ 星と朝が出会う場所

 20XX年ここは星火町せいかちょう。とある都会の一角に位置する町だ。

8年前に2つの市と合併したため、比較的広い。

 そんな町のある裏路地で少女が佇んでいる。深い青のワンピースに茶色のショートブーツ。腰まで伸びた髪の毛先は黄色に染まり、首元で光る勾玉まがたまの飾りが揺れている。彼女の名前は星影七星ほしかげしちせい 

祓い屋だ。祓い屋といっても幽霊を祓うわけではない。彼女が祓うのは

言霊ことだまが生み出したこの世のものではないナニカを祓うのが彼女の仕事なのだ。

            ♦

 

 「いってきます。」


 一人暮らしの部屋を出る。これから大学へ向かう。

大学では神学を学び、帰りには友だちとムーンバックスの新作を飲みながら帰路につく。これがアタシのルーティーン。

 

 今日も普段通り友達と別れ部屋に帰ろうとして足を踏み出そうとしたとき、

視界がグニャンとゆがんだ気がして足を止めた。居る。アタシの気がそう察知した。

 

 アタシには普通の人とは違う力を持っている。1つは言霊が生み出したナニカ、と呼ばれるものを祓う力。もう1つはカタマリの気を察知できる力だ。

 カタマリは普通の人には見えない。アタシもそれは同じで見えないからこそ気を感じ取って居場所を把握する。


時間はもう日付を超えている。周りには誰も居ない。居るのはアタシとカタマリだけ。街灯に照らされたアタシの影が揺れ動く。


「アンタ、アタシのこと憎い?」


アタシはそこにいるカタマリに質問する。返答でそのカタマリがどんな言霊から生まれたのかを探る。


「キエロ…」


耳元で声がする。

これは

嫌悪系カタマリはウザイや嫌いなどの言霊で生み出されたカタマリ。

人に危害を加えるタイプである。


「そっか。で?そんなアタシをどうしたいの?」

「イナクナッテシマエバイイ…。」


 アタシは振り返って空手の構えをとった。物理攻撃を加えて弱ったところを

祓うのがアタシのスタンスだ。


「来なよ、アタシのこと消してみなって。」


 カタマリはアタシに襲い掛かってきた。同時にアタシはカタマリに拳を突き出す。

 アタシの拳に手ごたえがある。命中したようだ。今だ。

 首元の勾玉を強く握る。カタマリが苦しんでいるのが分かった。

 少ししてカタマリの気が感じ取れなくなったから姿勢を正した。

 

「人間ってやっぱ怖いなぁ~。」

 

服についた汚れをパッパとはらい、アタシは帰り道を急いだ。

           

          ♦              

  「あざしたー。」

 

 やる気のなさそうな店員を横目に見てコンビニを出た。

今日の昼ご飯とカップ麺の補充を買った。日光が眩しくて眼の奥が痛い。

 

 ロビーに入ってエレベーターで8階に昇って部屋に入って鍵を閉めた。

昼食のコンビニのラーメンを食べながら、パソコンを起動する。真っ暗や部屋に

パソコン画面から漏れる光が唯一の明かりだ。カタカタとキーボードをたたく音だけが部屋に響く。

 青みかかった黒髪は肩につくくらいに長く、こんと灰色のオーバーサイズのパーカーを身に纏い《まと》、水色のラインが入った鼠色ねずみいろのジャージ生地のパンツをはいた俺の名前は朝比奈陽風あさひなはるかぜ。 

一応高校生だがしばらく行ってない。今はハッカーをしている。


 作業が行き詰ったので散歩をすることにした。日の当たらない裏路地を歩いた。裏路地は人が居ないから都会の喧騒けんそうから離れることのできるので俺にとっては

最高の散歩ルートだった。

 

 「ウゥ……。」

 

 声がしたので振り向くと、そこにいたのはバケモノ以外の何物でもなかった。

ヒイッと声を上げた。それに気が付いたのか、バケモノは俺の方を向いてにじり寄ってくる。バケモノの目と言われるところには、空洞で果たして俺が見えているのかは分からない体の半分は黒く変色しており、欠損しているところも目立つ。


「来ッ来るなァ!!!!」


 道端に落ちていた空き缶を投げつける。奇跡的に当たりはしたが、効いていないようだ。死んだ。そう思って目をギュッと瞑った。バケモノは俺を殺さなかった。

 

「ギャアァァァァァス!!!!!!」


 バケモノの叫び声が鼓膜を揺らした。

恐る恐る目を開ける。 女の人だ。


 深い青のワンピースを着ていて、腰まで伸びている茶髪の髪の毛先は染めてるみたいに黄色のいかにも陽キャって感じの人だ。

俺の苦手なタイプの人。俺の方に顔を向けてきた。

まるで人形のような幼い顔立ちをしていた。


「ねえ。アンタ大丈夫?」

尻餅をついていた俺に視線を合わせるためにしゃがみながら、問いかけてきた。


「あぁ。大丈夫。怪我もしてないし特に具合が悪いわけでもないからな。」

 

 今すぐにでもここを立ち去りたかった。半ば急ぐようにして立ち上がって、

彼女の隣を通り路地を抜けようとした。


「そういえばさぁ。」


彼女が声を張り上げる。驚いた俺は振り返る。


「な…なんだよ。」


「アンタ、カタマリのこと。」


「はぁ?なんだよカタマリって?」


「アンタが襲われてたヤツだよ。」


「カタマリ…。確かに視えたがそれがなんだ。

 それがお前にとって何か影響でもあるのかよ?」


彼女の顔が不機嫌そうになる。

「アンタさぁアタシよりも年下でしょ?敬語使えないわけ?」


「まぁいいや。カタマリって普通の人には視えないんだ。

 アタシも視えないんだけど。だからアンタみたいなカタマリの視える人って珍しい       

 のよ。」


「だから?早くしてくんない。」


「そう急かさないでよ。だからさアタシに協力してよ。カタマリを祓えるのは

 アタシだけなんだよ。でもアタシ可愛いからさカタマリは姿を視してくんない訳。」

 変わった奴だな。

確かに美人なのは認める。

だが、自分で自分のことを可愛いなんて平気な顔して言えるものなのかよ。

俺こいつ嫌いだ。どうせこいつも俺のことを馬鹿にするにきまってる。

俺がみんなと違うから。


「協力なんてしたところで意味がないだろ。してほしいんだったら俺にそれ相応の対価を支払ってくれないか。」


「も~。頑固な奴ぅ~。頑固な奴はモテないぞ~。」

 

うるせぇな。モテようと思って生きてるわけじゃない。

そもそも俺に恋愛事情なんてお前に関係のない話だろ。


「じゃあアタシに協力してくれたら、アンタの願い。」


俺の願いを何でも叶えてやるだって?よくそんなふざけたことが言えるもんだな。


「ふざけてない。叶えてあげる。例えアタシが犯罪者になろうとも。」


「アタシはアンタに付いてきてほしい。これは本心。」


驚いた。てっきり焦ると思ったのに。

それにこいつの目には光がある。

夜道を照らす星のようにキラキラと光っている。

 「俺の願いは…。」


「お!言ってくれるってことは協力してくれるってことかなぁ!。」


「黙って聞けよ。俺の願いは、。」


沈黙が続いた。少し気恥ずかしかった。何か言わなければ。


「平等な世界…。」


笑われる。前もそうだった。誰も俺の話を聞いてはくれなかった。


「分かった!!アンタの願い絶対叶えてあげる!」


 やっぱ変わった奴だ。だが、協力する価値はありそうだな。


「自己紹介がまだだったね!アタシは星影七星。」


「俺は朝比奈陽風。ハッカーをやってる。」


    「そっか!それじゃあこれからよろしくね陽風!。」

 








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