第34話 決まる最期の日(3)
約束の日まで、後二日。
何の変りも無い学校生活。
彼女は普段と変わらず塾へと行った。
放課後。
雅人は学校から一番近いホームセンターにいた。
「何でお前がいるんだよ――柏木」
出入口のカゴ置き場で、トイレから出てきた京介とばったり出会ってしまう。
初めて来た場所。
目の前には見飽きた顔。
なぜ――どうしてこうなった。
「そりゃ――たまたまだよ」
京介の方も雅人を見て驚いた顔をしていた。
京介、雅人の順にカゴを取り、店内へと入る。
「それで雅人。お前は何しに来たんだよ」
呆れた顔をして、京介はカゴを左右に揺らしていた。
男子高校生が互いにカゴを持ち、並列する。
正直、違和感しか無かった。
クラスで一番ホームセンターが似合わない男。
なぜ、柏木がここにいるのか。
「――日曜大工だよ」
ため息をついてから、雅人も呆れた顔をする。
来ることの無い日曜日。
だから、何でも出来た。
どうせ、嘘みたいなものだもの。
「日曜大工? 不器用な見た目しているのに?」
眉間にしわを寄せ、意味不明な顔をしていた。
「偏見過ぎない?」
相変わらず、性格が悪い。
好意を持つ女子を大切にしない、このクソ野郎が。
僕も――か。自身の言葉を振り返る。
僕は詩織を大切にしているだろうか。
彼女は僕に対して、しっかりとした好意は無いだろうけど。
詩織にとって、僕は共に死ぬ恋人と称した死に人なのだ。
「いやいや。お前には日曜大工は似合わないよ」
目の前にいるのにも関わらず、遠い目で言った。
京介に付いていく様に菜園コーナーへ辿り着く。
買う物が決まっていたのか、京介は迷わず商品をカゴに入れる。
京介のカゴには、小さな植木鉢と土。
学校帰りの男子高校生が買う物では無い。
「何か育てるの?」
植物を育てる様な人には見えないけど。
それにカゴには植物の種は無かった、
「うん。まあ」
珍しく覇気の無い返事。
てっきり、反論か何か反応があると思ったけど。
「柏木が?」
「うーん、俺もかな」
曖昧な顔で首を傾げた。
どこか落ち込んでいる様にも見える。
「俺も……? もしかして彼女と?」
「うん。何となく植物でも買おうと」
京介は心がこもっていない声を出した。
「えー、二人とも植物育てる様には見えない」
驚きのあまり、本音が零れた。
「それこそ、偏見じゃないか」
解せない顔といつもより高い声を出す。
「うん、まあ。本当に見えない」
そう言いながら、ロープをカゴに入れる。
カゴに入ったロープを京介はまじまじと見つめていた。
「俺もだよ。――まあ、互いにそう装っているだけかもしれないな」
見通した様な眼差しをゆっくりと雅人へ向ける。
「装っているだけ?」
いったい僕らは何を装うと言うのか。
僕はお前みたいに優等生を演じていないぞ。
「ああ。真の用途は違う――だろ?」
雅人のカゴを眺め、京介は告げた。
真の用途。
本来の用途とは違う別の用途。
「うーん、そうだね」
思わず頷く。相変わらず、柏木の真意はわからなかった。
「ん、それじゃあな、雅人」
「じゃあね、柏木」
買い物が終わったのか、京介はレジへと向かって行った。
「あいつはあれで何をするんだろうか」
植物じゃない何か。植木鉢に何を埋めるのか。
あんな小さな植木鉢に何を。見当がつかない。
でも、あいつも装っているのだ。――僕とは違う何かを。
ホームセンターで購入した物は、数十メートルはあるロープとロープを切るためのナイフ。
これで道具は揃った。
事前に出来る準備として、残るは遺書だけとなる。
僕の最期の言葉。
詩織の分は自分で用意すると言っていた。
何を書こうか。
まるでラブレターを書く様な緊張感。
帰り道の本屋で、雅人は封筒とA5の白紙を買った。
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