第27話 突然の出来事(1)
月曜日。
朝の教室。
突然知らされる悲報。
日曜日の昼、クラスメイトが交通事故で亡くなったのだ。
担任は朝礼前に言葉を詰まらせながらも説明する。
その後、彼がいた机に置かれた一つの花瓶。
机を見る度に思い出す陽気に笑う彼の表情。
もう彼はいない。
一日中、教室に重々しい雰囲気が漂っていた。
恐怖を覚えた訳では無い。
しかし、自身の熱が急激に冷めた感覚があった。
斜め向かいの席に座る詩織。
その背中が不思議と小さく見えた。
放課後。
クラス全員で彼の葬儀に来ていた。
棺の後ろに置かれた彼の笑顔の写真。
自然と彼の笑顔と笑い声が聞こえた。
彼の親しき友人たちは泣いている。
他のクラスメイトは呆然と俯いていた。
雅人の左斜めに立っていた詩織は顔を上げ、彼の写真をじっと見つめている。
――無表情だった。
彼女は何を考えているのか。
悲しんでいるのか。
しかし、涙を流す様な素振りも雰囲気も無かった。
きっと彼女は人の死では泣かないんだと思う。
泣いて欲しい――。
クラスメイトの死では泣かない君。
僕の死では泣いて欲しい。
両親が泣かなくても、友達が泣かなくてもいい。
君だけは泣いて欲しい。
欲望に近いその願望を雅人は切実に願った。
無音の世界で響き始めるお経。
独特な音程が深々と雅人の心に響いていった。
彼はもういない。
明日、学校へ来ても、彼の姿も声も笑顔も見ることは出来ない。
これが他人の死なのだ。
途端に悔しさに近い感情が溢れ出す。
自然と身体の力が入り、雅人は歯を食いしばった。
無論、彼は死ぬつもりは無かったはず。
不幸な事故によって彼の命は奪われたのだ。
どうして、こんな運命なのか。
なぜ、死のうとしている僕には訪れず、前向きに生きている彼に訪れたのか。
今を精一杯生きる彼にやって来たのか。
『運』
一言でそう言われてば、そう言うことだろう。
どうしようも無い話だと言うことは、雅人自身もわかっていた。
しかし、雅人の中で言い表せない悔しい感情が込み上げていた。
パイプ椅子に座る中、雅人はこの気持ちを割り切るために大きく息を吐いた。
葬儀が終わり、クラスメイトたちは各々の足取りで自宅へと戻って行く。
詩織はクラスの代表として、パイプ椅子の整理など葬儀の片づけを手伝っていた。
他のクラスメイトは誰もいないことを確かめた後、雅人もそれを手伝った。
手向けとまではいかないけれど。
最期に僕が彼のために出来ることを。
片づけが終わり、雅人たちは駅前の歩道を歩いていた。
「ねえ、雅人」
雅人の一歩後ろを歩いていた詩織が口を開く。
「何? 詩織」
「どうして、手伝ったの?」
「そりゃ、手伝いたかったからさ」
悲し気なクラスメイトたちと帰りたくない。そんな理由もあったけど。
「あら、そうなの」
意外そうな顔でそう言うと、詩織は歩幅を雅人に合わす。
「うん」
「雅人、一つ良い?」
「うん」
「この後、あなたの時間を頂戴」
「う、うん」
一瞬、言葉を詰まらせた。
どこかへ行きたいところがあるのだろうか。
僕の時間は君のために。
彼女との約束。
無論、僕に断る権利は無かった。
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