【参拾】どろぼう猫の食あたり24

 宝石を取り戻しアランが部屋を出るまで警戒をしていた桃とマノンは彼の姿が見えなくなってから少しだけ気を緩めた。


「それにしても見事なタイミングで銃を抜きましたね。というよりよく気が付いてくれましたね」

「そりゃ気づくだろ。その為に俺の前に立ったんじゃねーのかよ?」

「その通りです。ですが先に気が付くとは思いませんでした。私が隙を見計らって抜いた後に気が付いてくれればいいと思っていましたので」

「俺にかかれば余裕だな」


 そう言う彼女の鼻は少し伸びていた。


「ですがやっと手に入れたと思えば今度はこれですか……。まるで呪われた宝石ですね」

「全く、こんなもん盗むんじゃなかったぜ」


 マノンの人差し指と親指に挟まれたエメラルドグリーンの宝石は、二人からあまり良いとは言えない視線を送られたいた。


「これに懲りたら今度からもう少し忍び込む場所について事前に調査することですね」

「そんなんめんどくせーからなぁ。――まぁ次はなんとかなんだろ」


 今回こんな目にあったにも関わらず楽観的なマノンに桃は聊か呆れていた。


「はぁ。これはあまり懲りていないようですね」


 溜息をつきながらも桃は懐中時計を取り出す。


『十三時四十五分』


「時間がありませんね。急ぎましょう」

「そうだな」


 マノンは返事をしながら宝石をポケットに入れ銃を手渡す。銃を受け取った桃は辺りを見回した。


「ここはどうしたものですかねぇ。と言っても今は時間がないのですが」


 そう言いながら二丁の銃を適当に投げ捨てた。


「では行きましょうか」

「あいよ」


 少し気の抜けた返事を貰い部屋を出る二人。

 部屋の外は隣のビルと同じように柱が等間隔に並んだだっぴろいだけの空間。ただ造りかけなだけなのか部屋は桃らがいた一室だけ。ぽつんと造られた部屋はまるで撮影の為のセットのようだった。

 そして外に出た二人は真っすぐエレベーターに向かいボタンを押し到着を待つ。

 すると桃のスマホレットが電話を知らせた。そこに表示されたのは番号だけ書かれた登録されていない相手。ワイヤレスイヤホンを片耳に付けていた桃はスマホレットを操作しそのまま出た。


「もしもし?」


 若干だが警戒し探るように話し始める桃。


「今朝方ぶりね」

「ソフィアさんですか?」


 番号を教えていないという事実が桃に確信は与えなかった。


「そうよ」

「どうして私の番号を? いえ、やはりそれはいいです」


 彼女が自分の番号を手に入れた手段は、情報屋・プロのハッカー・倉庫にいる時にこっそりとなどいくつか思い浮かんだ為それを訊くのは止めた。

 そしてそのタイミングで待ってたエレベーターが到着し、話をしながら乗り込む。


「どうされましたか?」

「まずは可愛い妹を助けてくれてありがとうね」


 なぜそれを知っているのか? とまたしても疑問が浮かぶが桃は口を挟まず続きを聞くことにした。


「そのお礼としてあの部屋は私が片付けといてあげる」


 私が片付けるとは言ったものの本当に自分の手で片付けるとは思えずだとするとその言葉が意味するのはひとつ。


「それは掃除屋を雇うということですか?」

「えぇそうよ。私も掃除は好きなのよ。昔はよくマノちゃんやミラちゃんのお部屋を掃除してあげたわ。アー君の部屋だけはいつも綺麗だったからしたことないけどね。だけど死体となるとねちょっと……」


 その一瞬の間は『言いたいことは分かるでしょ』と代わりに続けた。


「でも安心していいわよ。腕のいい掃除屋さんを知ってるから」


 桃はすぐには返事をしなかった。

 それは掃除屋が血痕や弾痕などありとあらゆる痕跡を消すことを知っていたからだ。その痕跡にはもちろん死体も含まれ他同様にとして清掃される。


「ひとつお願いがあります」

「なに? 何でも言ってくれていいわよ」

「あそこにいる彼らをちゃんと埋葬してもらえますか?」


 あのチンピラを人として埋葬するということに驚いたのか、それとも桃のその優しさに感動でもしたのかは分からない。しかしその言葉がソフィアの心を何らかの形で動かしたことは少し遅れてきた返事がより一層優しさを秘めていたことが代わりに語っていた。


「――いいわよ。ちゃんとしたお墓に埋めてあげる」

「ありがとうございます」

「それじゃあ最後まで可愛い妹のことよろしくね」

「はい」


 その言葉を最後に通話は終わった。


「姉貴からだろ? どうしたんだ?」

「あなたを助けたお礼にあの部屋を掃除してくれると言ってました」

「昔から掃除好きだったからなぁ。俺の部屋もよく掃除されてたわ」

「ソフィアさんも同じことを言っていましたよ」


 そして一階に着いたエレベーターを降りた二人は停めていた車に乗り込み、急ぎAOFへと戻った。

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