【弐】受け継がれし桃の意志3

 桃と美咲が去り、残された西城はしゃがみ込むと御伽達の死体を確認していた。


「足が数本千切れ剣を持っている傷だらけの蜘蛛のタトゥーか。テリコス・アラネアの一員だろうな」

「下っ端ですかね?」

「見たところそうだな」


 立ったままの高見は辺りに転がる死体を一見した。


「しかしこれだけの数の御伽……。で相手をしたんですか?」


 高見の質問に西城はバカにしたわけではなさそうだが軽く笑った。


「何人って……。あいつ一人だよ」


 その答えに高見は包み隠さず一驚に喫した。


「えっ? でも、御伽は人間より身体能力が高く、一対一ならまだしも……この人数を一人で相手なんて。それに相手が御伽でなく人間だとしても流石にこの人数は……」


 すると高見は謎が解けたようにハッとしたような表情を見せた。


「もしかしてあの人も御伽なんですか?」

「いや、あいつは人間だ。俺が知る限りではな」

「じゃあ一体何者なんですか?」


 読みが外れ思考が迷宮に入り込んだという様子。


「――何者。か」


 だがそう呟いた西城は立ち上がると高見の方を見た。


「よくは俺も知らん。知っているのは、あいつが強いということ。あいつらが『桃の一族』と呼ばれているってことぐらいだ」

「桃の一族?」


 初めて聞くのだろう、高見はそう復唱した。


「それとこれは聞いた話で本当か知らんが。あいつら一族がEOCBに初めて接触してきた時。当時裏の世界で力を持っていた組織、三幸組のボスとその幹部全員の首を土産に持ってきたって話だ。それ以来、三幸組は裏社会から完全に消えた」

「それもたった一人でやったんですか?」

「そこまでは知らん。だがそれ以来EOCBと桃の一族は協力関係にあるってことだ。世代が変ればそいつが実力を示し協力関係は継続される。そして今はあいつってことだ」


 説明を終えた西城はスマホレットの映像を操作し始めた。


「まっ、とりあえずあいつは今のとこ心強い仲間ってことだ。何かあったら頼れ」

「はぃ」


 西城の説明にまだ吃驚の静まらない様子の高見は少し抜けた返事をした。


「そんじゃ、あとは清掃が来んのを待って、ここを片して報告書を書くだけだ。とりあえずそれまでにこいつら一ヶ所にまとめとくぞ」

「分かりました」


 そして西城と高見は手分けして死体を一ヶ所に集め始めた。

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